『商道 風姿花伝』第40話

花伝第七 別紙口伝 

【この口伝に花を知る事。まづ、仮齢、花の咲くを見て、よろづに花をたとへ始めし理をわきまふべし】

現代語訳から要点になるところを抜き出してみましょう。

『申楽の場合でも、観客が心の中で新鮮な魅力を感じる事が、そのまま面白いということなのである。「花」と「面白さ」と「めずらしさ」とこの三つは同じ事なのである』

『ただただ、花というのは、観客にとって新鮮なのが花なのである』

『全ての演目を演じきり、あらゆる演出を工夫し尽くして、能の珍しさの何たるかを感得するというのが能の花なのである』

『能の花は役者の工夫が咲かせ、その花の種は稽古である』

『鬼ばかりを得意芸とする役者だと観客が見なすならば、上手く演じているとは見えても、新鮮さは感じるはずはないから、鑑賞しても魅力は感じないのである』

つまり、『面白さ』=『花』は新鮮さにある、と言うことですね。

わかりやすく言えば、『目先を変える』ということでしょうか。

私の場合、琉球染織が本業です。

日本のいろんな染織の中で、沖縄染織をメインにやっています。これが全体の7割を占めます。

普通、単品物の問屋は前売りでは長続きしません。

大手の問屋は企画のアイテムの一つとしてやっている感じ、小売店では何年かに一回程度でしょう。

いくら、お客様に可愛がられていると言っても、同じ物を毎回毎回買ってくださる方はいらっしゃいません。

沖縄の中でも色々と手を変え品を変え、はたまたオリジナルで沖縄物の中に入っても浮かないような物を作り出したり、他から面白い作品を引っ張ってきたりと、工夫をしているんですよ。

同じ作家さんでも、長い付き合いを想定して、制作方針をプランニングします。

派手な物、地味な物、素材、技法、帯、着尺、・・・その作家さんの得手不得手、時代性、流行、景気などを考えながら、制作のお願いをします。

作家さんの特性を活かさないお願いは、作家さんを殺してしまうことになりますから、あくまでも作家さんと真正面から対話しながらやっていきます。そうしないで、勝手放題に造ったものを取っていたのでは、必ず、売れずに残ります。そして、最終的には作家さんも行き詰まります。

『もずやは派手物を造らせる』という話が沖縄で知られているようですが、これはちょっとした訳があるんです。

どうも、あんな指図をするのは、当社だけのようです。

なぜ、そんな事をするかというと、色々理由があるのですが、その中のひとつとして、『派手物を造れば地味物はいつでも造れる』という事があります。

派手なのを上手に造る人は、必ず、地味物も上手に造ります。

でも、地味物ばかり造っている人は、派手物になると手がしびれてしまう人が多い様に感じるのです。

派手物を造れば、その作家さんの得意とする色、色合わせのセンス、などなど作家さんのポテンシャルを把握することができます。

ここが、『新鮮さ』を演出する大きな要素となるんです。

突っ張りが効いているから引き落としが決まるわけですね。

作家さんもある一定以上のレベルになると技能はそう変わりません。すくなくとも商業ベースでは問題にならない。

作品の優劣を決定するのは最終的には『色』です。

無地にしろ、多色物にしろ、一つ一つの色を如何に丹念に執念をもって色出ししているか、その結果良い色が出ているか。

作品全体を見ても、ある一カ所のある色に引き込まれてしまうこともあります。

でも、分析すると、回りの色が良いから、余計に引き立っているんです。

多色使いの作品は、ある意味で、その作家さんの色見本でもあるわけです。

逆に、『勝負色』の無い作家さんは、絶対的な作品が造れません。

私としても非常に指図がしにくいのです。

『この作家さんのコレだったら、絶対即売れ』というのがあるんです。

でも、そればっかり造っていると、ダメなんです。

一定の期間をおいて、その作家さんの新しい魅力を引き出して、紹介しなければなりません。

それがなかなか、自分ではお気づきにならない事が多い。それを補うのも私の仕事なんですね。

そういう意味では、同じ作家さんの同じ技法の作品でも本当の意味での価値は違うんです。

Aさんの花織の帯ならいくら、花倉織の着尺ならいくら、と私がいただく価格はたいてい一定です。

よほどでない限り変わりません。

でも、本当は違う。

普通で言えば、同じ作品を作り続けていれば、だんだん市場価値は下がります。

希少価値性がなくなるからです。

でも、作家さんの出し値は同じです。

中には何十年も全く同じ作品を作り続けている人もいるんですよ。

でも、現実的にその人の作品は価格が下がってきていると想います。

それを下がらないようにしなければならないわけです。

市場価格が下がれば、最終的には作家にも圧力がかかるのです。

その為にはつねに『新鮮さ』を追求せねばなりません。

しかし、伝統染織の場合、技法は制限があります。

新鮮さは奇抜さやタダ単なる目新しさでは表現できません。

市場はそんなに甘くない。

『如何にその作家さんの良い所を引き出すか』が要点なんです。

多様性を演出しながらも、個性=長所をきっちり盛り込む事がなにより大事です。

作品づくりも、我々の商いの世界も同じだと想いますね。

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この記事を書いた人

萬代商事株式会社 代表取締役
もずや民藝館館長
文化経営研究所主宰
芭蕉庵主宰 
茶人

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