『商道 風姿花伝』第34話

【かように申せばとて、わが風体の形木のおろそかならむは、ことにことに能の命あるべからず】

長らくお休みさせて頂いておりましたが、また再開したいと想います。

4月にヘルペスになってから、どうも自己防衛に走りがちで、無理が利かなくなりました。

盆前に夏風邪を引いてしまって、ちょっとやる気が出ずにいましたが、ようやく復活してきました。

というわけで、本題にはいりましょう。

世阿弥は『自らの能の基本がいい加減では決して能芸は立ちゆかないであろう』と書いています。

つまり、自分の『芸風』を確立し熟達してこそ、ありとあらゆる能を演じ尽くして永遠の能の魅力を獲得できる、ということです。

私には私の芸風、つまり弊社の商品独特の味わいとか、私の語り口の特徴があるわけです。

私も、他の会社の商品や他の販売員のトークなどを参考にして自分の中に取り入れる事は数多くあります。

それは、自分自身の技=芸が確立していてこそ初めて出来る事だ、と言うことですね。

私もそう思います。

相撲でも『型』を持っている力士は強くて、大物食いをすると言います。

この型になりさえすれば、平幕でも横綱を倒す事がある、というのがあるそうです。

横綱はなかなかその型にさせないから強いわけですが。

逆に言えば、オールマイティーというのはよっぽどでなければ、勝ち目が薄いということでしょうか。

呉服店でもありますね。

あれこれとよく揃ってはいるけれども、これと言って特徴も魅力もない。

販売員も幅広く知識はあるけれども、これと言って特に詳しいものもないし、こだわりもない。

そんなお店はたいてい、どの商品も面白く無いんです。

何故そうなるのかと言えば、それは商人の意欲とか打ち込み方が現れるからだろうと想います。

いろんな商材があるなかでも、やっぱり自分の性にあう物というのがあるはずなんですね。

私は京友禅が好きとか、自分はやっぱり大島が好きとかね。

好きこそものの上手なれで、好きな物から勧める。

勧めるから、商売も腕が上がるんです。

そして、そうなると商売が面白くなるから、色々と研究する。

つまり、性に合う物が好きになり得意になるわけです。

楽しい努力がそこにある。

こう努力すれば、上手く行く事を知っているから、幅広く対応できるようにもなるんですね。

あれもこれもと、薄く広くやっても、いちおうの対応は無難にできるでしょうが、今時の消費者の方はその程度の知識はお持ちですし、自慢できるレベルでもありません。

1点に深い知識があれば、そこから関連して他の物も深く理解しやすいのです。

そして、興味自体が深くなる。

いろんな商品に熟達して、上手に商うようになるには、一つで良いから十八番の商材、商品群を持つ事です。

そこから、自分の芸風を確立していく。

野球なら、ここのコースに直球が来たら、たとえ160キロでもスタンドに放り込んでやる、というツボを持つ事です。

それは、天性の物として、予め備わっています。

それを自分で探すのです。

どれが売りやすいか、ではなくて、どれが好きか、美しいと想うか。それが肝心です。

わたしが考えるに、商売の理想は1種類の商品で成り立つ事です。

堺にはそんな店がたくさんあって、プノンペンのプノンペンそば、ちく満の蒸し蕎麦、かん袋のくるみ餅・・・

大阪では551の豚まんなんかもそうですね。

そういう、絶対的商品を造り出すのが商売の究極の目標なのです。

はじめはいろんな料理やお菓子をやっていても、どんどん一つに集約されていく。

それは得意料理であったでしょうし、すなわち人気メニューでもあったはずです。

いろんな物を造って売った経験がまた、一つの品物を磨き上げて行く助けにもなる。

軸を持つ、ということでしょうか。

軸があれば、その周りにあるいろんな他の物が土台になって、さらに軸の頂点は高くなるのです。

つねに自分の軸を意識しながら、様々な商材に挑戦していくということが大切なように想います。

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この記事を書いた人

萬代商事株式会社 代表取締役
もずや民藝館館長
文化経営研究所主宰
芭蕉庵主宰 
茶人

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