商道 風姿花伝』第32話

【およそ、この道、和州・江州において風体変はれり】

世阿弥は和州=大和と江州=近江では芸風が違うと書いています。

江州では物まねを二の次にして、姿の美しさを基本とする。

大和では、物まねを最優先としてありとあらゆる演目を演じる中で歌舞の芸を実現しようとする。

最終的にはどちらにも精通していなければ、一流の能楽師とは言えないと書いています。

商売に置き換えれば、商品知識の豊富さと話の上手さ、という所でしょうか。

これも両方備わっていなければ、長い商人としての人生で安定した商いをすることはできないと思います。

私もいろんな商人を観てきましたが、若いときから年寄りになるまで一線級の商人でありえた人はまれです。

30代40代のころはものすごい販売員だったひとも、50歳を超えたころにはもう、勢いを失っているという事が多いのです。

とくに、一時期商いの場から離れて、管理者なんかになって復帰してくると、元の力が失われている状態に遭遇します。

つまり、ノリとか勢いで商いをしている人が多いんですね。

あとは、お客様の力を自分の力と勘違いしている。外から見てもすごい!と見えたりするけれども、現実にはお客様を無くすとまったく精彩が無いことが多い。

なぜ、そうなるのかといえば、努力の積み重ねが無いからです。

若いうちからよく売る人はいわゆる営業センスに恵まれている。

だから努力しない事が多いんです。

ところが、お客様はどんどん成長されます。

時代も、趣味趣向も変わっていく。

自分は一流の商人だと思っているけれど、そのうちに若い華やかなこれまたセンスに溢れた商人が現れる。

そこで繋がっているのは『なじみ』だけです。

なじみは大事ですが、これにおぼれたら、商人は成長しません。

ですから、年配になると、よいお客様を頼って、高額品を右から左へ、というような商いになりがちなわけです。

そのお客様がいなくなると、こんどは、安い商品を振り回して、自滅する。

こんなパターンを何度となく観てきました。

そうならないように努力する事が必要なんですが、そのためには商品知識、そして話の幅を広げて話術に磨きをかけることです。

そして、あたらしい商品提案、商品作りができるように常に勉強することだと私は思っています。

人間国宝の作品だと、仰々しく説明する商人がいたとしますね。

じゃ、その商人がその作品のどこが良いと思っているのかを、聞いてみられたらいいと思います。

どこが普通の人のと違うのか?

それが正確につかめていて、自らの感性に照らして説明できたとしたら、その人はあたらしい商品づくりもできるはずなんです。

商品知識と会話のおもしろさというのは、そういう奥深いところまで含めて、の話です。

とくに男性販売員の場合は、話し相手になるという部分においては女性販売員に刃が立ちません。

異性ですから心を許してもらうのは難しい。

ではどうするか?

信頼と尊敬と安心をしていただくことではないでしょうか。

いい年をして、くだらないウダ話しかできず、だらしのない所作をしている様では、相手にしてもらえなくなるのも当然です。

常に自分の感性と知識を磨いていさえすれば、どこに行っても、どんな時代でも対応できる商人でいられるだろうと私は思います。

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この記事を書いた人

萬代商事株式会社 代表取締役
もずや民藝館館長
文化経営研究所主宰
芭蕉庵主宰 
茶人

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