『商道 風姿花伝』第28話

【風姿花伝第四 神儀に云はく】

ここでは天の岩戸伝説と芸能のはじまりについて書かれています。

天照大神が天の岩戸に隠れて、それを誘い出すためにアメノウズメノミコトが奇声を発しながら踊ったところ、隠れていた天照大神が顔を出して、隠れていた太陽も現れた。その光が天照大神の顔を照らしたから『面白い』といい、このアメノウズメノミコトの踊りが芸能の発祥だという話は、良く知られています。

商いというのは、何が始まりか?と言えば、古代ギリシャの売春だと言われています。

女性が春をひさいだのが人類最初の商売というわけです。

『商』の字は女性が足を開いて男を誘っている姿を象形化したものだと言われていると聞いたこともあります。

我が国においては、士農工商という身分制があったことは良く知られていますが、人別帳に乗せられて人間扱いされていたのは、侍と農民だけです。

工商、そしてその下に置かれていた身分の人達も、一定の差別を受けていたと言われています。

武士というのは元々、農民が武装化したもので、貴族・豪族などの荘園領主が農民を支配していた、というのが源平以前の社会構造です。

すなわち、商工は、その社会構造からはみ出していた。

さらに、商人は工人とちがって何も生み出さないと思われていました。

商業の原始的・基本的な機能とは何でしょうか?

それは流通=荷役です。

馬車や大八車を引き、背中に商品を背負って、生産地から遠く離れたところで高く売って利ざやを得る。

これが商人の基本的な仕事です。

為政者からすれば、荷役の仕事など誰にでも出来て、自分の利益とはあまり関係がありません。

当時は、その便益を図る尺度もなかった。

ですから当然の事ですが、年貢などはありません。

それで、商人というのはずっと社会の底辺に位置づけられ、『商人のくせに』と言われてきたんです。

しかし、大名などに多大な貢献をした商人は士分を与えられました。

堺の会合衆には士分が与えられています。

それは、信長が要求した矢銭に応じたからだろうと思います。

身分なんて金で買えたんですね。

しかし、そういう『商人なんて』『商人のくせに』意識はずっと日本の社会に根深く残っていて、『金の為なら悪事を働いても平気』というのが未だに商人像の大きな部分としてあると私は感じます。

商人の中には『どうせそんな風に思われているんだから、もういいや』と道を踏み外す人も多かったと思います。

近江商人とういのは勤勉で倹約家で、商人のお手本とも言われていますが、反面『近江乞食』と言われて蔑まれてもいました。

武士は人を殺しても、商人がきびしい商売をすると外道呼ばわりされるんです。

そんな中で生まれたのが石田梅岩の心学であり、商人の生きていく道筋が示されたんですね。

お能の世界も、達人の域に達した人には旗本の身分が与えられたそうです。

千利休の後妻は元夫は能楽師だったそうですし、商人と芸能人の関わりというのも深いモノがありそうです。

身分制の話を書き出すと、危ないのでこのへんで止めておきますが、商人も芸能人ももともとは大変低い身分でした。

その中でも、研鑽を積み、中には士分となる人も出たのです。

そしてその人達は、ただ高い身分を得ただけでなく、さらに努力を重ねて自らを磨き続けた。

それは、先人の苦労を知っていたからではないでしょうか。

私も商人とバカにされ、愚弄された事があります。

一度や二度ではありません。

呉服商だから余計なんでしょうか。

でも、そんな時、私はヘイコラしません。

『無礼者!』と一喝しないまでも、憮然として、怒りを身体全体から発散します。

なぜ、世阿弥がこの『天の岩戸伝説』を持ち出したか。

それは、能楽の道を行く者に誇りを持たせようとしたからではないでしょうか。

不本意な身分におかれてはいても、私たちは神話に連なる歴史をもっている。

尊い仕事に携わっているのだ、という事を知らせたかったのじゃないでしょうか。

商人だって同じです。

歴史のあらゆる場面で商人は大きな役割を果たし、武士とは違う意味で社会貢献をしてきました。

常に世情のの荒波にもまれながらも誇り高く、たくましく生きてきた。

私がこの商道風姿花伝を書いているのも、この商いの道を行く人がどこまでもプライドを捨てず、『武士も及ばぬ心意気』をもって仕事に当たって欲しい、と思うからです。

楠木正成や千利休も商人でした。でも、かれらの商人としての部分にスポットライトがあたることはありません。

でも、商いの道志す方ならば、商人としての楠木正成、千利休というものを自らの心に照らして考えてみられたらいかがでしょうか。

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この記事を書いた人

萬代商事株式会社 代表取締役
もずや民藝館館長
文化経営研究所主宰
芭蕉庵主宰 
茶人

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