『商道 風姿花伝』第26話

【問ふ。恒の批判の中にも「しほれたる」と申すことあり。いかようなる所ぞや】

「しほれたる」=しみじみとした情感がある、と書いてある所から、私たちが言うところの『枯れた』という感じなのでしょうかね。

世阿弥は、この『しほれたる』の境地は『花がある』より上位であり、努力では到達できないだろう、と書いています。

私はまだ枯れた風情を出すには若輩でありますし、達人の境地にはまだまだ遠いところにいます。

しかしながら、この『枯れた』風情を醸し出している先輩販売員が居るかと言えば、答えはNOとしか言いようがありません。

よく売る販売員はいても、この人はすごいな、と思う人はタダの一人としていません。

天才的によく売る人は知っていますし、販売の上手な人も知っています。

でも、この人を目指そう、と思える様な販売員は居ないのです。

生意気な様ですが、現実的にそうなのです。

よく売る人だな、と思っていたら、突然ダメになる人も多いですし、VIPのお客さんが買わなくなるとガクンと成績を落としてしまうことも多い。

ただ、呉服業界を離れると、尊敬できる人はいますね。

すごい販売員というのは、知識、気品、教養、販売スキル、そして、仕事に対するまっすぐな情熱を持っている人の事だと私は思うわけです。

なぜ、呉服業界に居ないかというと、お偉くなると販売の現場から退いてしまうこともあるのだと思います。

でも、多分、昔はすごい人がたくさんいたのだと思います。

なぜ、今居ないかというと、高度成長期からバブル期にかけての時代にはそんなものは無くても、やる気次第でバンバン売れたからです。

あの時代は、熱心なら誰がやっても売れたんです。

私も、前職を辞めてから2ヶ月で着物の販売に出ましたが、それでも売れました。

正直、いまよりたくさん売れた。

それが現実なんですね。

本当は、景気が悪くなればなるほど、腕を磨き知識を深めて行かねばならないのですが、全体としてそうはなっていないのですね。

そんな事で、私も、実は目標を明確に持っているわけではないのです。

それで、茶道や能楽を学んでいるんです。

これは本当に良かったですね。

あぁ、私もこういう人になりたいな、と思える方とも出会いましたし、人間の品性と言うものについても学べたような気がします。

世阿弥の言う『しほれた芸』というのは、いろんな事を経験した達観や自信から自然と醸し出されるものじゃないでしょうかね。

私がこのブログのテーマに書いている『商道』に『道』の字を着けているのは、商いというものを通して、自分を高めていく事を目標としていきたい、そうあるべきだという考えからです。

ただ売って儲ければ良いというモノではない。様々な取引ややりとりの中から、人間としての向上の道をさぐり、欲を抑え、自利利他の考えをもって日々の仕事に邁進する。

そうでなきゃ、毎日のご飯を食べて寝るだけでしょう?

えらそうな事を言うようで恥ずかしいし、未熟ものめがと批判もされそうですが、私は、後進の目標となるような商人像というのを残してあげたいと思うんですよ。

だからこそ、いい加減なコトするひとは許せないし、自分にも厳しくありたいと思うのです。

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この記事を書いた人

萬代商事株式会社 代表取締役
もずや民藝館館長
文化経営研究所主宰
芭蕉庵主宰 
茶人

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