『商道 風姿花伝』第22話

【問ふ。これに大きなる不審あり。はや功入りたるシテのしかも名人なるに、ただ良い間の若きシテの、立合に勝つこと有り。これ、不審なり】

昔、名人といわれたベテランが、駆け出しの若手に競演で負けることがある。これは何故か?という問いです。

商売の世界ではいくらでもあることです。

ベテランが販売に長けているとは全く限りません。

若い人が良い場合もけっこうあるのです。

昔、めちゃくちゃ良く売った販売員が、年齢を重ねる事にダメになる場合もあります。

世阿弥風に言えば、花が無くなっているのです。

所帯じみたり、年寄り臭くなってきて、魅力がなくなると、高額品は売れなくなります。

着物のお客様、とくに高額品の着物を買ってくださる方はそれなりの年齢層である場合が多いのです。

私が何度も書いている様に、商売人というのは、かわいらしくなければいけません。

可愛がってもらって、ナンボです。

そういう面で、若い男性は有利なんです。

若いから着物は売れないと思ったら、大きな間違いです。

着物を売る場合、一番花があるのは、30代、40代でしょう。

50歳になったら、歯が抜けたり、頭が禿げてきたり、姿勢が悪くなってきたりと、容姿が衰えはじめます。

それを何かで補えばいいのですが、『自分は実力があるのだから』と話法を過信し、身だしなみと知識・見識・教養を磨かなければ、

若い人に負けるのは当たり前なのです。

自分がお客の立場になったら、すぐに解ることです。

販売ということに関して言えば、これは80%以上『天性』『センス』です。

努力で補える事には限界があります。

私自身はどうかといえば、そんなに天性に恵まれているとも思いません。

『なんで、こんなやつがこんなに売るんや』という事があるんです。

その人の出す空気というか、なんとなく、信用してしまうような、断りにくいような、そんなオーラを持っている人がいるんです。

多分、これを悪用したケースが詐欺師なんでしょうね。

口も上手くないし、見てくれもそうでもない。だけど、抜群に売るという人がいるのは確かです。

それで、そんな天分を持っていない場合、どうしたらええのか?ということです。

つまり、若手の花に、ベテランが勝つには、どないしたらええでしょうか?

突然やろうとしても無理です。

40代に入ったら、基本的にはそれまでの蓄積が物を言います。

若いときにバリバリやっていた商売人が、衰えをどうカバーすればいいか、ということになるでしょうね。

私としては、やはり努力だろうと思います。

まずは、自分を知るという事じゃないかと思います。

自分のカラーやキャラクターにあった、修練の仕方があると思うんですね。

私は、第一印象として固いと言われます。

ものすごく、堅物に思われるんですね。

そして、偉そうにしていると思われがちです。

お客様はそうでもないのですが、一緒に仕事をする外商さんにはそう映る場合があるようです。

ほんなら、知識と教養でめにものみせたろやないか!!というのが私の作戦です。

それプラス、大阪弁の強さと柔らかさをうまく使い分けた話術ですね。

簡単に言えば、芸術・工芸漫談を武器にしたわけです。

うちの母は『あんた、ようそんな毎日毎日、本読めるもんやなぁ』と言いますが、

私だって、ほんとうは、のんびり釣りでもしていたいんです。

本を読んだり、図録を見たりすることは、インスピレーションが作品に反映されるだけでなくて、知識の仕入れでもあるんですね。

だから、高い本でも惜しまずに買うわけです。

もちろん、芸術漫談戦法が通じないお客様もいらっしゃいます。

それはそれで、仕方がありません。

私のお客様ではないと思って諦めます。

他にそのお客様に合う商人から、お求めになればいいのだと思います。

すなわち、商売人の技量とうのは相対的、定性的なものなんですね。

多くの人に対応できる、というのが天分の部分で、これはどうしようもない。

自分がどういう人間で、どういう得意技をもって、どういうお客様を対象にしていくのか。

それが定まらないと、50代以降は難しいのではないかと思います。

繁華街にある呉服チェーン店には、若いお兄ちゃんが結構いたりしますよね。

あれは、あれで、使えるんだと思います。

でも、一生呉服でごはんを食べていけるかといえば、非常に難しいのです。

着物屋なんだから、着物の事を知っているのは当たり前です。

男性販売員が、ベテランの女性販売員に勝つにはどうしたらいいか。

競争相手が持っていないモノを持てば良いのです。

それが、自分の花になります。

明日から、沖縄行ってきます!   (^o^) 

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この記事を書いた人

萬代商事株式会社 代表取締役
もずや民藝館館長
文化経営研究所主宰
芭蕉庵主宰 
茶人

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