『商道 風姿花伝』第16話

【神】

これも、こじつけの難しいテーマです。

神・・・

商売において、『威厳』や『気品』というのをどうやって表現したらいいのか、という事を考えてみましょう。

あきんどと言えば、揉み手をして、へいこらしている様子がイメージされますが、もちろん、基本的には腰が低くなくてはいけません。

頭の高い商売人はよくありません。

でも、平身低頭しているだけでは、立派な商売人とは言えないと思います。

腰と頭は低く、志とプライドは高くなくてはいけません。

商売について理解の無い人は、頭の低い商売人を卑屈と見なしてバカにしますが、これはとんでもない思い違いです。

商人というのは、基本的に表に出ている行動と、腹の中は違うものです。

つまり、低い頭、低い腰、丁重な態度というのは、商人にとって『鎧(よろい)』であり戦闘態勢なんですね。

居丈高な態度を取るというときは逆に戦闘態勢を解いている時です。

心で思っていればそれで十分というのはプロとしては甘えで、お客様への感謝や尊重の姿勢は、きっちりと表に出さねばなりません。

あるいみでオーバーなくらいに表現できてはじめて、役者と言えるのです。

それが大前提です。

でも、それだけではダメです。

ここぞ!というときは、威厳をもって対応せねばなりません。

それは信頼感を表現する為でもあります。

お客様のお話に合わせて言っている事が左右にぶれたり、なんかごまかしている様な話しぶりでは、深い信頼関係は生まれません。

柔らかい表現を使いながらも、きちんとした話ができなければならないのです。

お客様が間違ったTPOでお出ましになろうと言うとき、『基本的にはご自由でございますが、セオリーからは外れております。これこれこういう、理由があって、この場合にはこういう装いが適切かと存じます』と柔らかくもビシッとお伝えするのが責任ある商人の姿勢だろうとお思います。

結果として、お客様がどういう選択をされるかは、それこそご自由です。私たちが強制することは全く出来ません。

でも、無責任な話しぶりで、お客様に恥をかかせることは、絶対にあってはならないことです。

私はここが一流かどうかの分かれ目だと思います。

扱っているモノが上等かどうかよりも、信念をもって、きちんとした情報をお伝えできるかどうか、です。

これは、資金があるから出来るというモノではありません。

いわば、『見識』の問題です。

モノの善し悪しが解るということ、それ以上に、大切なのは、お客様の身になって、最善と思うアドバイスをさせて頂くということが私たちのつとめです。

それを裏打ちする知識も必要です。

しきたりとか決まり事、というのは必ず、その背景となる理由や歴史があります。

それを熟知していて、お話しする。

『それでもいいの、私は私。』とおっしゃるなら、残念な気持ちはありますが、お任せするしかありません。

商売人ですから、あまり教養を自慢したり、他人を悪く言って得することはありません。

あくまでも、扱っている品物、つまり私たちなら着物とか染織品、服飾という事について、深く知識を得、日頃から様々な考えを巡らせて、お客様のお役に立たねばなりません。

売ったらおしまい、じゃないのです。

お求めになられた後の事まで含めて、

『喜んでもろて、なんぼ』だと私は思います。

『威厳』とか『気品』というのはそのために、備えておくモノなんだろうと私は思っています。  

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この記事を書いた人

萬代商事株式会社 代表取締役
もずや民藝館館長
文化経営研究所主宰
芭蕉庵主宰 
茶人

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