『商道 風姿花伝』第14話

【法師】

私も能を見始めた頃に想ったのですが、びっくりするくらいお坊さんが出てきます。

たいていの場合、動きがゆったりと重々しく、威厳に溢れています。

たいていはワキ方と呼ばれる能楽師が担当するのですが、始めにちょっと演じたらすぐにワキ柱という能舞台の向かって右側の柱の前に座ってじっとしています。

なんか暇そうに、眠たそうにしているときもあって、時々表情を見て、面白がったりしています(^_^;)

それはさておき、世阿弥はこの『法師』を演ずるのに、『威儀を本として気高き所を学ぶべし』と書いています。

つまり、作法通りの重々しい所作を基本として、気品ある様子をまねよ、ということです。

商いにおいて、一番これが大切なのが、初めと終わりです。

つまり、お客様にお会いしたとき、そして、最後に挨拶してお見送りする、あるいはおいとまする時です。

そのお客様とどんなに親しくても、ここはビシッと決めなければいけません。

初めと終わりは恭しく、品格と礼儀をもって御挨拶するのです。

真ん中の商談は、ある程度親しさをもってお話しするのが良いのですが、ここが肝心です。

『どんなに親しくても』です。

あるデパートでお客様にアンケートしたところ、ほとんどのお客様が『馴れ馴れしい接客は不快だ』と答えられたそうです。

こちら、つまり商人がいくらお客様と親しいと想っていても、お客様にとっては『客と商人』なのです。

これを忘れていけません。

しかし、あんまりしゃっちょこばった話も面白みに欠ける物です。

ですから、始めと終わりはどんな事があってもビシッと決めるのです。

笑顔と礼儀、オーバーすぎるくらいでちょうど良いのです。

そして、これは大阪弁かも知れませんが、お客様を絶対にいじってはいけません。

自分がアホになるのはいいですが、お客様を話のネタにしてはいけません。

どうしてもどうやっても、自分の得意とするお客様のタイプというのがあります。

ノーブルなお客様とざっくばらんなお客様、両方を得意とするのは難しいと想います。

ですが、初めにきちんとされて、不快に思う方は皆無だと想います。

それから、だんだんとお話しを伺いながら、こちらが合わせていけばいいのです。

最重要ポイントは『お客様にご満足いただく』という事以外ありません。

あと、大切なのは電話です。

お得意先、お客様からかかってきたとします。あるいはこちらからかけた時。

声を2オクターブくらい上げるのです。

馬鹿馬鹿しいと想うかも知れませんが、電話というのは、普通に話すと顔が見えない事と独特の心理状態のせいで、不機嫌に聞こえるそうです。

ですから、機嫌良く、『はーぃ!もずやでございまーす!!』と笑顔もつけて第一声。

そして、ハイテンションで、受け答えする。

『何がそんなにうれしいねん』と想われるくらい、実際にお会いしているときより3倍くらい愛想良くお話ししましょう。

それが出来ないときは、できるだけ電話に出ないことです。

今は、携帯電話に電話すれば誰から掛かってきたか解っているとお客様、お得意様も知っていますから、表示された名前を見た瞬間、覚悟をして、演じきる事です。

これは、大変大事なことなのです。

逆にいえば、電話でもめ事が解決しにくいのは、電話での会話が難しいかを示しています。

得に男性は注意が必要です。

野太い声で『はい。○○でございます』と貫禄たっぷりに言っても、全然好感は持たれません。

私もついつい調子に乗ってしまうことがあるのですが、常に『大切なお客様である』という想いを表現しなければいけません。

それは卑屈であることと同じではありません。

卑屈になってはいけないのです。

プロとしての堂々たる姿勢を保ちながら、自信たっぷりに、余裕をもって、それでいながら、可愛らしく、あかるく、優しく、丁寧に対応できるかどうかが大切なんですね。

簡単な様でこれが一番難しいのですが、実行するためには、常に平常心を保つ事です。

平常心の話はまた別の機会に。

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この記事を書いた人

萬代商事株式会社 代表取締役
もずや民藝館館長
文化経営研究所主宰
芭蕉庵主宰 
茶人

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