『商道 風姿花伝』第13話

『商道 風姿花伝』第13話

【物狂(ものぐるい)】

週に1回のペースでは一年かかってしまうので、ちょっとペースを上げますね。

まだ、他に書きたいシリーズもありますし、週2回くらいでアップしたいと想います。

能では、この【物狂】というのが出てくるのがあります。

物狂というのは、文字通り気が狂うことと、何かに取り憑かれた状態を言います。

この本の解説にも書いてある『卒都婆小町』は世阿弥の作です。

99歳になった小野小町に深草四位少将が憑依して、突然、変な事を言い出すのです。

この話を書くのに、今でDVDで『卒都婆小町』を見返しました。

物狂が演出上、どんな役割をしているかを確認するためです。

私はまだ全く未熟ですので、感じ取れることに限界がありますが、この『物狂』によって、面白みを増すというか、話に厚みが増すように想います。また、現実の能としては、ここがシテ(主役)の見せ場なのでしょう。

つらつらと小野小町のやつれた姿を書くだけではおもしろさは半分も出ないかも知れませんし、演技としても一人二役的なおもしろさも出てくるでしょう。

商いにおいて、厚みを加える、面白みを加えるためには、どうしたらいいでしょうか。

一度限りの商売ならガンガン押しの直線的なトークもアリかもしれませんが、私のようなカジュアルやお茶人相手のアイテムですと、いかに継続してご愛顧頂くかが、非常に大切になります。

そのためには、お客様に楽しい話が出来なければなりませんし、話自体も面白く無いといけません。

つまり、自らがエンターティナーであることが必要です。

物狂になぞらえて考えて見れば、商談から、一転、話題を変えることも大切な技です。

また、時には、商売抜きにして世間話や趣味の話だけで終わる事も自分で組み込まねばなりません。

売らないつもりが売れちゃった、なんて事もたまにあります。

ほとんどのお客様は、私の事も知らないし、ブログも読んでいらっしゃらないわけですから、はじめは『そのへんの呉服屋のオッサン』です。

私の場合、通常は、お客様との架け橋には外商さんがなってくれるわけですが、店頭ではそうは行きません。

まず、自分から声を掛けるところから始まるのです。

そこから商品の説明に入る。

そして、だんだん煮詰まってくる。お客様は購入に対して前向きに考えている様子。

何度も何度もポイントを繰り返しお話しする方法もありますが、これでは、ファンになって頂くのは難しいかも知れません。

ポイントは、どこでどう話題を切り替えるか、です。

着用法や用途など、新しい提案を加えるのもいいですが、全く今、説明している品物から離れた話をする場合もあります。

そのためには、お客様に出来る限り話をしてもらって、説明しながらもその情報を分析していなければなりません。

茶人なのか、舞踊をされているのか、はたまた、布が好きな人なのか、知らぬフリをして心に持っておくのです。

そして、さりげなく、そのポイントに近い話を持ち出すのです。

例えば『こないだ、大阪能楽会館に能を見に行った時、こんなコーディネートの方がいらっしゃいました』とかですね。

もちろん、茶会でも良いわけです。

うちの様なアイテムなら、沖縄のいろんな事を知っていた方が、絶対に有利ですね。

作家さんの実像なんかもお客様は知りたかったりします。

それを如何に自然な流れの中で、持ち出すかが大事です。

唐突だとそれこそ、物狂いになってしまいます。

これは、その場で成約に至るかどうか、の話ではありません。

もちろん、そのための効果もありますが、『楽しい買い物シーン』を提供するために必要な事ですし、それが積み重なって、自分のファン作りができると私は思っています。

私の場合、1年に2回くらいしかお客様とお会いすることが出来ません。

その間には、他の商材の売り込みもあるでしょうし、他所の呉服店からも誘いがあるでしょう。

それを半年間思いとどまってもらうためにはどうしたらいいか、と言うことになるわけです。

沖縄物なんて、いまどき、どこの呉服屋でも扱えるし、値段もうちより下をくぐってくるかもしれません。

それでも、『もずやから買いたい』と想ってもらう為にはどうしたらいいか、です。

何の義理もコネもないお客様に、そう想ってもらうのは至難の業です。

呉服屋さんは、着付けしたり、しみ抜きしたり、常にお客様をコンタクトを取れます。

それに勝つには、作品の魅力に加えて、『すごく楽しい』場の提供が必要な訳です。

でも、過剰なサービスは価格を押し上げてしまう事は前述しましたね。

コストを掛けないためには、『まじめおもしろい』というか、剛柔、強弱をとりまぜた、話法を会得しなければならないのです。

デタラメを言わないで、面白い話をするには、やはり努力と勉強が必要です。

アホな事ばっかり言っていたのでは、信頼されにくい。

硬いことばっかりでも、面白く無い。

それは、作り手さんに対しても同じですね。

相手が女性であるかぎり、楽しんでもらうという姿勢が絶対に必要だと私は思っています。

必要なのは知識と『間』です。

間は本を読んでも身につきません。

どうしたら身につくか。

たくさん女性とお話しして、『笑わせる』事だと想います。

こちらが二人なら、ボケとツッコミで行けますが、一人なら、両方演じなければなりません。

お客様も煮詰まってしまいます。煮詰まってしまえば、考える事をおやめになってしまう。

煮詰まりかけた時に、タイミング良く、他の話を出すんです。

もし、それで商談が不成立になっても構わない。

前に反物をしまってしまう話をしましたが、これも目的は同じです。

お客様に冷静な頭と気持ちで、きちんと考えて納得して頂く為です。

それでも、『よく考えたら・・・』なんて事もあります。

その時は、自分の説明が甘かった、お客様の知りたいことを察知しきれなかった、と反省すべきです。

商売人なら誰だって売りたい、買って頂きたい。

私やメーカーのみなさんが販売の現場に出るときは、まさに『一期一会』一発勝負です。

限られた時間と空間の中で、いかに満足していただくか、なんですね。

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この記事を書いた人

萬代商事株式会社 代表取締役
もずや民藝館館長
文化経営研究所主宰
芭蕉庵主宰 
茶人

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