『商道 風姿花伝』第8話

【五十有余】

世阿弥は『ねぬならではの手立あるまじ』と書いています。

しないのにこしたことはない、ということです。

でも、商人はそうは行きませんね。

年金の受給年齢もどんどん上がってきていることですし(^^;)

また、年齢を重ねても出来るのが着物の仕事の良いところでもあります。

私は今年48歳になりますが、この業界ではまだ若手で、業界はおっちゃん、おばちゃん、おじいちゃん、おばあちゃん、ばっかりです。

また、年かさがはるほど、『着物に詳しい』と思ってもらえるというメリットもあります。

事実は別にして、そう思ってもらえます。

ですから、大ベテランの境地にはいったら、その期待を裏切らないような修練をして、商談最後の〆にまわるようにすれば良いと思います。

つまり『私が保証します!』という事です。

私は生意気ながら、それなりの勉強と研究を積んできているつもりですが、この47歳のオッサンでも『私が保証します!』にいまいち説得力がない。ところが、70歳くらいのおじいちゃんが言うと、『あ、ほんまなんや』と思ってもらえる。これが人間の心理というやつです。

大阪人が言うより京都人が言ったほうが信用される、というのもあります。

大阪の人はうまいこと言うて買わそうとする、という警戒心が働くのでしょうか。

そんなことはないのですけどね、私なんか口下手でっし。

そういう事ですから、年かさが行くと、嘘くさいことでも本当に聞こえます。

『おばあは嘘つかない』というのと同じですね。

ですから、軽々な発言は慎まねば、お客様に大きな損失を与えてしまう可能性もあるとも言えるわけです。

いまは、染織の技法も、着物の着方も流行も変わってきています。

価値観も美意識も違う。冠婚葬祭なんて20年で大きく様変わりしています。

それをちゃんと踏まえないと、着物に関して的確なアドバイスはできません。

昔はこうだった、は通用しないのです。

もし、70歳ちかくなって、自分が販売の第一線に立つとしたら、いま結婚式や披露宴はどんな風になっているのかを常に見なければなりませんし、茶道の場もおなじです。

それでいて、伝統を踏まえて、きちんとした正式なアドバイスをしなければいけません。

それが大ベテランに課せられた仕事だろうと思います。

それと、やっぱり若手の指導でしょうね。

私も、もうベテランの域に入ってきましたから、若手、後継者を育成せねばならないのですが、そのあたりはちょっと自信がありません。

この仕事は、伊達や酔狂の世界だからです。まともに考えたらやってられません。

それでもやりたい!と想い、その気持ちを一生貫いていかなければならないのですから、常人では難しいと思います。

でも、作り手との交流し、共に物作りをし、消費者によろこんでもらえる仕事は楽しいです。

正直、大手を向こうに回し、多勢に無勢の中で戦っていくのは大変です。

歯に衣着せず正論を吐けば、かならずその何倍もの批判を浴びます。

でも、これは私の年代しか、大阪に居る私にしか、手作りのものを扱っている私にしか、出来ない事だと思うのですね。

私が偉大なご先祖の名前を拝借しているのも、そういう中でも決して節を曲げない為なんです。

このブログを読んで、私のようにやってみたい、という人が、もし1人でも出てこられたら本望に思います。

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この記事を書いた人

萬代商事株式会社 代表取締役
もずや民藝館館長
文化経営研究所主宰
芭蕉庵主宰 
茶人

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