『商道 風姿花伝』第4話

『商道 風姿花伝』第4話

【十七八より】

七つから稽古を始めるとありますから、この年代は10年たったころ、そして、変声期を経て、少し安定し出した頃という感じです。

世阿弥はこの時期が一生の分かれ目だと書いています。

そして、無心に稽古に励めと書いています。

商売の世界で言えば、10年に足らない位のキャリアの時期でしょうか。

この時期、商売のスタイルも変わってくるように思います。

まずは、慣れが出てくる。

会話も流ちょうになり、冗談も交えて、楽しい商談ができるようになるのがこの位の時期からです。

その代わり、若い頃と違って、お客様からの見られ方も変わってくる。

キャリアからして、それなりの専門知識が身についていると判断され、間違いが許されなくなります。

それとは逆に、慣れから来る慢心が出始めるのもこの時期です。

そして、商売の世界の『花』が褪せだして、傲慢さ、横着さが顔をだしはじめます。

頭の悪い人は、もっと早く傲慢・横着になります。

この時点で、商売人としての成長は止まります。

商売というのは『あきない』=『飽きない』というくらいで、同じ事をコツコツやるのがいいのです。

牛のよだれという言い方もしますね。

でも、だからといって、勉強しなくて良いということはないのです。

仕事に慣れて、それなりに売れるようになれば、多くの人は勉強しなくなります。

そして、自分が一人前の商売人であると錯覚してしまうのです。

本当に勉強が必要なのは、ある程度モノも解りだしたこの時期からなのです。

今は、着物に関する本もたくさんありますし、インターネットでも情報が得られます。

でも、そこに書いてあることは必ずしも本当ではありません。

着物が好きな消費者もそういう情報は常に接しているわけで、消費者の方はよく勉強されています。

でも、反対にプロが勉強していない。

プロが勉強しないから、呉服商が軽蔑される事になってしまいます。

30歳台は商人にとって一番充実した時期ですが、この時期に勉強してないと、あとになってアホ面をさらす事になります。

プロなんですから、圧倒的な知識が必要なんです。

商売において経験とカンというのは大切なモノですが、これほどいい加減なモノもありません。

時代が変わると対応できないのです。

知識が豊富であることと、商売が上手であることは違います。

でも、知識を持っていれば、売るにも買うにも大きな支えになります。

商売とは売るだけじゃないのです。

経験と知識が無ければ良い仕入れはできません。

また、仕入れが出来なければ、一人前の商売人とはとても言えないのです。

いまは、委託が中心の業界になっていますから、商売人が育たないのです。

10年ちかくなると、どんなモノがどんなストーリーで売れるのかが解ってきます。

そのストーリーを実証的に解明していくために知識が必要なんです。

『感じ』ではなく、具体的な指示をだせなければ、仕入れや物作りはできません。

商売人の最終到達点は、『ものづくりをする』という事なのだと思っています。

そうでなければ、モノを右から左に動かして利ざやを稼ぐ、本来無用な人達と言われてしまうのです。

あくまでも、商人はモノ以外の『ソフト』の部分を担当するのです。

また、前述の通り、売ることには才能が左右します。

努力だけでは、天才的販売員に勝てません。

基本的に、着物の販売において、男性は女性に比べて不利です。

それは異性であるために共通の話題が少ないからです。

そして、着装が出来ない。

それを何で埋めるかです。

品物をみて、品名や作者を当てられたって、モノが解ることにはなりません。

そんなものは書いてあります。

もちろん、必要なことですが、書いてない本当の事を知り、消費者に適切に伝える事が必要なのです。

そのためには、着物の雑誌や着物好きの芸能人や作家が書いた娯楽本ではなく、専門書を読み、現実に作っている人の生の話を聞く。

その次のステップとして、自己表現としての品揃えや、買い付け、製造指図が出来るようになるのです。

ですから、商売人というのはお客様に育てられるのです。

お客様から頂くヒントや情報の中から自らの商売のスタイルとうものが構築されていくのです。

この頃、10年が経とうとしたころには、特に謙虚さを持ち続けるという事が必要なのだと思います。

この情報へのアクセスはメンバーに限定されています。ログインしてください。メンバー登録は下記リンクをクリックしてください。

既存ユーザのログイン
   
新規ユーザー登録
*必須項目

投稿者: mozuya

萬代商事株式会社 代表取締役 もずや民藝館館長 文化経営研究所主宰 芭蕉庵主宰  茶人