『商道 風姿花伝』第3話

『商道 風姿花伝』第3話

【十二三より】

7つからお稽古を始めて、12,3歳ですから、商売で言えば3年目くらいですかね。

そのくらいになると、そこそこ前が見えてくるかも知れません。

何事もビギナーズラックというのがあって、営業でもスタートしたときは、不思議と売れるのです。

無心でやっているからだとか、熱心だからだとか、色々理由があるとおもいますが、結果として売れます。

作り手が販売するわけですから、同じトークを年がら年中話すわけで、なんで3年も、と想うかもしれませんが、

これは着物というものが四季のある日本の着衣であることが理由です。

そして、着物にはTPOがある。地域差がある。だから3年くらい経たないと、よちよち歩きにもならないというのが本当のところだと想います。

ですから、扱っている商品がシャレ物であろうが、帯であろうが、着物全般の事、とくにTPOや紋などについて、正しい知識を完璧にもっていなければいけません。

売ればいいというものではないのです。

その商品が、お客様がご要望になる加工形態に耐えられるのかどうかも、判断できなければいけません。

たとえば、お客様の体型をみて、この反物や帯がお使い頂けるのかどうか、瞬時に判断し、ダメだと想ったら、ハッキリとそう申し上げなければなりません。

着物を売るときに大切なのは、そのあたりの基礎知識です。

それが、まぁ、一通り飲み込めてくるのが3年目くらいという感じです。

もちろん、一生懸命勉強しての話で、いつまでたっても、知らないで居る人もいます。

それで、売れてしまうこともあるから怖いのですが・・・・

売れてしまうことがあるのは、お客様の目的買いの場合です。

3年くらいやれば、訪問着と留袖を間違える人はいないですし、振袖に名古屋帯を合わせる人はいないでしょう。

この時期の心得として世阿弥は『やすき所を花にあてて、わざをば大事にすべしはたらきをも確かに、御曲をも文字にさはさはとあたり、舞も手を定めて、大事にして稽古すべし』と書いています。

この時期の能は魅力的で花もあるが、本当の花ではない。だから、基本をきっちりと稽古しなさい、と言っているのですね。

営業マンの花といえば、30歳台です。

着物のばあい、女性の販売員で30代というのは難しいでしょうが、男性なら、いちばん良いのが30代です。

私のように47歳になると、そろそろ花が衰えてきて、50代になれば営業マンはそろそろ終わりです。

それはやはり花がなくなるからです。

着物の販売と言うことに関して言えば、若いということは有利に働きません。

年かさがいくほど、着物の事をよく知っているように『みられてしまう』からです。

現実はそんなことありません。

ベテランでも着物の事、織物、染め物の事を解っていない人はうじゃうじゃいます。

また、解っていても平気でウソを言う人はもっと多いかも知れません。

私は25歳でこの仕事に就きましたので、知識では絶対に誰にも負けまいと、必死で勉強しましたし、自身が沖縄に行くようになってからは作家さんにいろんな事を教えてもらいました。

ですから、いまは沖縄染織のことなら、流通業界においては、誰よりも知っていると自負しています。

話はそれましたが、知識面での充実と、真っ直ぐなトークというのがこの時期、心得なければならない事だと想います。

手を抜かない、逆に、言い過ぎない。過不足無く、必要最小限の言葉を的確にお客様にお伝えする。

知らない事は、正直にお詫びして、誰かに聴くか、調べて返事することです。

3年くらいたつと変な慣れが出てきて、いい加減なことで商談を閉じてしまうことが出てきます。

話術も知識も不十分なのですから、まずは誠実に、そして基本に忠実に、お客様に接することです。

そして、営業の根幹は『お客様から可愛がって頂く事』だと肝に銘じることです。

営業マンの花とは『かわいらしさ』です。

対面販売の怖いところは、いくら商品を気に入っても、販売員が嫌いであれば、まずほとんど成約しない、という事です。

私も個性が強いので、私を可愛がってくださるお客様と、私が嫌いで離れたお客様がいらっしゃると想います。

それはそういうものだと想って、あきらめるしかないのですが、できるだけ、後者を減らさねばなりません。

それとともに、商品とともに自分のファンになってくださるお客様を増やさねばならない。

あまたある作家・メーカーの中で自分の商品を選んでもらうには、そこのところの努力も必要なのです。

だから、『花』が必要なのです。

販売員によって、それぞれ持ち味がちがいます。

ぼくとつさが売りの人もいれば、楽しい会話が魅力の人も居る。怒濤の押しを続ける人も居ます。

でも、3年ではそんな味はまだ出てきません。

やはり、そうですね・・・6〜7年やれば、まずまずいける線でしょうか。

最終的には営業はセンスです。才能です。天才的に売る人がいます。

これは、なぜなのか分析できません。

でも、そんな特異な才能がなくても、そこそこいけますし、ない方が良い販売員にはなれます。

知らなくても結果がでれば、努力しないからです。

知らない人から買って、迷惑するのはお客様です。

『着物は日本の文化ですから』と着物業界の人は口を揃えて言いますが、文化を説明するにふさわしい知識をもっていて初めてプロと言えるのです。

この時期は、まず、着物に関する基礎知識をきちんとおさえて、ひたすら真面目に基礎知識を習得すること。伝統文化に関する知識はそのあとでいいのです。もちろん、自分の専門外に関しても、深くなくて良いですから、広く浅く、正確な知識の修得に努められたらよいかと想います。

ここまでの事をきちんとやれば、本業の『つくる』仕事にもよい影響が出てくるだろうと想います。

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この記事を書いた人

萬代商事株式会社 代表取締役
もずや民藝館館長
文化経営研究所主宰
芭蕉庵主宰 
茶人

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