『商道 風姿花伝』第2話

【七歳】

ここでは能の稽古を開始する7歳の頃の教える側の心得が書いてあります。

ずいぶん早いように感じると思いますが、私の師匠によれば3歳で初舞台というのも珍しくないそうです。

三つ子の魂百まで、という事でしょうね。

商売も同じです。昔は、実際に商売をしなくても、商売人の子なら日常的に商売の話を耳にしていました。

店と住居がひっついていた、あるいは同じだったからです。

ところが今は、会社と住居が別々になった。

ここが、世襲による強みが無くなった最大の問題点だと思います。

昔は、幼い頃から声かけや集金に子供はかり出され、商売の現場を経験したはずです。

職人でも同じだと思いますが、二十歳過ぎでは遅いのです。

商売の心得の前に学問が入ってしまうと、学問が優先されてしまいます。

理だけで動かないから、経験やカンが要るのであって、それはいかに早いうちから商売に接するかによって大きく違ってきます。

さて、本題に入りましょう。

この『七歳』に書いてあることでポイントだと思うのはここです。

『ただ、音曲・はたらき・舞などならではせさすべからず』

謡いや、はたらき、舞など以外はさせてはならない、と言っているのです。

それも基本的に好きなモノからさせよ、としています。

まず、興味あるものから、そして基礎的なモノからということでしょうね。

セールスに置き換えれば、『定番商品』といいかえて良いでしょうか。

定番商品というのは、一番売れる商品であり、売りやすい商品でもあります。

商売を学ぶ上でも一番大事なのは商売の楽しさ、喜びを実感することだと思います。

丁寧に説明して、お客様が納得して買ってくださったときの喜びは何にも代え難いものがあります。

ですから、商売人は商品とお客様に育てられるのです。

その『定番商品』を前にして、何を学ぶか。

商売の『型』を学ぶのです。

セールストークというのは、一定の論理とテンポを踏みながら進みます。

これを反復練習して、寝言でも言えるようにならなくてはいけません。

1.金屏風・・・商品の権威付け

2.差別化点のアピール・・・他の商品と何処が違うのか

3.購入後のメリットのアピール・・・この商品を持つことでどんなメリットがあるのかを伝える。

4.購入を決断してもらうための多角的なアドバイスと応答。

5.クロージング

一度、自分の作品、自分が勤めている会社の商品で最も売れ筋のものを材料に、トークのパターンを紙に書いて組み立てて見てください。

もっとも大事なのは、クロージングです。

ここに至るには、経験とカン、経験2割カン8割が必要です。

クロージングに関しては秘術なので(^^;)、聞きたい人は、直接会って教えます。

このパターンを組み立てて見て、同僚や友人を相手にセールスの練習をしてみてください。

そして、その相手から様々な質問をしてもらってください。

そこから、想定問答集を自分で造ってみてください。

私があたらしい商品を扱う場合、同じようにセールストークを造って、想定問答集をつくります。

そして、お客様からの質問はその問答集で90%以上対応できます。

つまり、消費者の方々は、たいてい同じ事を購入のポイントとされていて、同じ事でお悩みだということなのです。

そうすることで、いい加減な説明をしたり、お客様に合わない商品を売りつけたりすることが無くなります。

帯なら、どの年代の人に、どんな着物に合わせて、どんなシチュエーションで、・・・等々、あらゆる質問を書き出してみる。

そして、『型』を造るのです。

どんなに品質が良くても、どんなにデザインがすぐれていても、お客様のご希望に添うモノでなければ、最終的には良い品物ではなくなります。

それは、品物の価値は、その提供する便益によって決まるからです。

つまり、宝の持ち腐れにしてしまってはいけないし、そうならないように的確な説明・アドバイスをしなければならない、ということです。

あれもこれもしなくて良いのです。

まずは、定番の売る自信のある商品、売ってみたい商品、自分の好きな商品で1つ筋の通ったトークパターンを造ってみてください。

ポイントはそれが、その作家、そのメーカーの定番であることです。

珍品では汎用性に欠けるのです。

実戦で反復することが大切なので、定番であることは非常に大切です。

そして、同僚や友人を相手に練習する。

これを『ロールプレイング』といいます。

本当は、手本は作家さんやメーカーの社長さんが造るのが良いと思います。

私も、この仕事に入ったとき、先代から徹底的にたたき込まれました。

そして、その定番商品のセールストークは今でも毎日毎日、お客様に語り続けています。

トークが出来上がったら、あとは実戦して、補足していけばよいのです。

だんだん、語り口もなめらかになり、自信に満ち、世間話やよもやま話も出来るようになるでしょう。

そして、定番を売り込む力が付けば、お客様のご希望を聞き出す事ができるようになります。

お客様ははじめから、これが欲しい、なんて言ってくださいません。

定番をお勧めする事から始まって、それを買って頂くもよし、お好みに合わないなら、どんなものが良いのかを聞き出せば良いのです。

そのための斬り込み隊長が、この定番であり、それを強力に後押しするセールストークの『型』が必要なのです。

それをしないで、やみくもに勧めるから、強引だとか、強要するとか言われてしまうのです。

はじめはまず、『型』を学ぶ事、そしてそれを反復することが大切なのです。

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この記事を書いた人

萬代商事株式会社 代表取締役
もずや民藝館館長
文化経営研究所主宰
芭蕉庵主宰 
茶人

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