『商道 風姿花伝』第42話

【物まねに、似せぬ位あるべし】

ここでのポイントです。

年寄りになりきって演ずれば、自然と年寄りになるのだから似せようとする必要は無い。でも、年寄りは若くしたがる。しかし、現実には動作がついていかない。そこのところを上手に演ずれば面白さを生む。つまりは『道理』である。

少し、話の角度を変えてみましょうか。

生粋の大阪人、河内人である私がどうやって、沖縄の染織をプロデュースし、面白いものをつくり出すのか。

普通に考えれば、伝統工芸なんですから、その風土の中で生まれ育った人が考えてこしらえる以上のものはないはずです。

琉球びんがたを考えて見ましょうか。

今、びんがたをつくっている人の多くはずっと先祖から沖縄に住んでいる人で、沖縄に生まれ育った人です。

でも、いまある環境はすぐれたびんがたが生み出された時代とは大きく異なっています。

正確に言えば技法が残っているだけで、資料さえ十分にあるわけではありません。

首里の景色も首里の人の気持ちも変わっているし、第一王家が無い。士族もない。

華やかな王朝文化は歴史遺産としては感じられても、今に息づいているものはごくわずかです。

そういった環境の中で育った人の手によって造られた物がそのまま、『本当のびんがた』に最も近いと言えるでしょうか?

あくまでも、『そのまま』でそういえるのか、という意味です。

老人が老人を演じて、面白い老人らしい味のある演技ができるのか?

案外、若い人がずっと老け役を演じていて、実物はまだ若いので驚いた、と言うことも多々あります。

吉本新喜劇の井上竜夫という芸人さんは、昔からずっと老人役ですが、いかにも老人らしい演技を実際の老人以上に面白く見せています。

世阿弥が書いているように、『道理』を踏まえて演ずれば、ホンモノ以上にホンモノらしくなり、面白さも加わるのです。

『びんがたの道理』とは何なのか?

びんがたはどうして生まれ、どうしてあんな風になったのか?

沖縄の歴史を考えればそこが見えてくるような気がするのです。

琉球王国といえば、清と冊封関係にあり、薩摩藩からの圧力も受けていた。

武器を持たず、戦わずに独立を守る為に、国王や官吏は最大限の努力をしたでしょう。

そのためには、清や薩摩からの使者に『威厳』を見せる事がどうしても必要だったと思います。

なんという名前か忘れましたが、首里城のある地点からは大きな眺望が開け、沖縄がとてつもなく大きく見えるんだそうで、琉球の官吏は各国施設を必ずそこから、全景を見させたのだそうです。

大きく見せる、強く見せる、華やかに見せる、それでいて、無抵抗であることをアピールする。

びんがたはそれを表す衣裳としての役割をもっていたのではないかと想うのです。

そして、それは国内にもあって、色や文様によって、位が決められていた。

びんがたは男性の衣裳でもあったのです。

琉球王国は、大和や清国に対して知恵と芸術で対抗した。

その武器のひとつがびんがただったのです。

そう考えると、びんがたの本来伝統的にあるべき姿というものが浮かび上がってきます。

力強く、華やかで、戦意を失わせるほどに美しい。

芸術力、文化力で、大和や清国の使節を圧倒するためにびんがたはあったのではないでしょうか。

そう想ったとき、大和人である私のびんがたに対する演出は、『王朝の輝き』を演じさせるためのものになるのです。

考える事は、『びんがたとは一体なんなのか?』ということです。

伝統工芸品としての技法に即して造られたものをびんがたというのでしょうか?

もちろん、そういう定義もあるでしょう。

でも、『らしくある』という事が、その土地の風土や文化を担った工芸品としは必要だと私は思います。

伝統とは?風土とは?歴史とは?

大坂人が案外大坂の歴史や魅力について知らないのと同じように、沖縄の人もご存じない事が多いのです。

私は言わば、沖縄の人達に先祖の思いを伝えようとする、うさんくさい霊媒師みたいなものです。

もしかしたら、間違っているかも知れません。

でも、内地の人間が沖縄に対して抱いている想い、あこがれというものについては、沖縄の人よりよく知っていると想います。

私は、びんがたについて、『果たしてこんな姿を内地の人はびんがたに求めているのだろうか?』とずっと思って来ました。

このままでは、びんがたは京友禅の亜流になってしまう、との警告も発してきました。

びんがたと京友禅では成り立ちも意味も違う。

つまり、『道理』が違うのです。

私がものづくりをするとき、すべからく、その伝統工芸の歴史・文化・風土を研究し、考えます。

そこから、自分なりの結論を導き出す。

それが当を得ているか、間違っているかは、生み出されてくる作品が教えてくれますし、お客様も教えてくださいます。

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この記事を書いた人

萬代商事株式会社 代表取締役
もずや民藝館館長
文化経営研究所主宰
芭蕉庵主宰 
茶人

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