日本の美術と工芸 第10話2017/2/9

そうした絵には『画面そのものに芸術的欠陥があっても損なわない真実性と力強さがあり、そうした力強さと真実性とが混ざり合ってグロテスクであるにも関わらず存在している』

画面そのものにある芸術的欠陥・・・

写実性でしょうか?

たぶん、これは浮世絵をみて書いているのでしょうが、まぁ、確かにグロテスクといえばグロテスクな感じはしないではありません。

絵というものにはいろんな機能があると想うんです。

私は芸術に関しては専門家じゃないので、詳しい事は解りませんし間違っているかもしれませんが。

ひとつは記録に残す。

貴族や大富豪が有名な画家に自画像を描かせたのは自分の絶頂期の記録をこの画家に描かせて残しておきたいという名誉欲からでしょう。

あとひとつは絵解きです。

歴史やら、人物伝が漫画形式で出版されている様ですが、これは何故かと言えば解りやすい、とっかかりが掴みやすいからでしょう。

昔の事ですから識字率も低い。

それで、お釈迦様やイエス・キリストの教えを絵に描いて説明した。

どちらにしても時間を止めて、それを記録して、だれもがそれを観れるようにする。

そが絵のもつもともとの機能だろうと想うんですね。

歌舞伎役者の絵はブロマイドだったんだろうし、東海道五十三次は、いまでいえば旅行雑誌。るるぶみたいなもんでしょうか。

その目的を達成するにはまずは、パンチがあること、伝えたい事、知らせたいことが、一目瞭然に眼に入ってくることでしょう。

今で言うならポスター的な役割が求められたはずです。

ロートレックミュシャを観たら、グロテスクとは言わないですけど、なにか平板的で浮世絵とよく似た感じを覚えるのはそのせいじゃないでしょうか。

例えば、顔写真をポスターにするのと、割にザッとした版画で似顔絵を表現したものをポスターにするのと、どちらがインパクトがあるでしょうか。

私は後者だと想います。

それにあまりに精密な絵は通りがかりでは眼に入ってこない。

食い道楽の人形やかに道楽のカニも、グロテスクで幼稚性を残して居るからインパクトがある。

一回観たら忘れられへん!

理屈じゃなくて、ドーンと強引に土足でずかずか入ってくる。

それは、まだ完全に分析できていないですけど、多分空間の採り方なんだろうと想うんです。

私の専門の絣や紅型でもね、本当に良い造形のものは、ほどよい空間を残して居て、意識的にそこに眼が行くように仕組まれているんです。

配置や空間というのは、それ自体の美というのももちろんありますけど、それは、勝負どころに視線を集中させる仕組みなんですよ。

超一流の作家というのは、この作品のこの部分の良さを解って欲しい、そう想っているハズなんです。

私がパッとその作品を観て、『ここ、すごいですね!』と静かに言うと

ニヤリ・・・

このやりとりがたまらないんですね!!

西洋がにはテーマがあるでしょう?

絵の下には、必ずお題目が書いてある。

日本のは?

○○の図

観たらわかりますやんね。

お題が無いんです。

観たら解るからです。

剛速球のストレートだから、力強く真実性を感じるんです。

うそくさいけど、伝えたい事が伝わる。

西洋画みたら、『うまいこと描いたぁるなぁ』と想いますけど、

浮世絵観ても、『?』て感じでしょ。

でも、昔の人は『これが団十郎ちゅうやっちゃ』とか

『富士山てこんなんか。金剛山とどっち高いんやろか?』

とか話してたはずです。

そのためには、『すごいな!』『えらい変わってるな!』『きれいやな!』

という感動が心に打ち込めれば十分なんですね。

私としたら、作り方から来る浮世絵の効果も考察したいところですが、それはまたこんど。

(つづく)

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この記事を書いた人

萬代商事株式会社 代表取締役
もずや民藝館館長
文化経営研究所主宰
芭蕉庵主宰 
茶人

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