『染織プロデュースという仕事』2015/7/9

先日、ある方から、私の仕事についてご質問があって色々話していましたが、ちょっとこの場でお話しておこうと想います。

私は何者かといえば、キモノの問屋です。

問屋といっても色々あって、いわゆるメーカー問屋とか、買い継ぎ商とか、産地問屋とか前売り問屋とか、ブローカーまがいのも居ます。

私の問屋業、呉服商の仕事の中身は色々あるのですが、一番特徴的なのは染織プロデュースという仕事なんだろうと想います。

じゃ、それはどういう仕事かというと以下のような感じです。

まず、必要な事は、『自分の美意識』『自分の世界観』を確立していること。あるいはそれを目指していること。

私はこんなのが美しいと想う、こんなのがあったらいいな、と想う。

そういうのをしっかり持っておかないと、プロデュースは出来ません。

それがないとタダの注文者です。

そして、その美意識と世界観を実現してくれる『作り手』を探す。

『あ、この人なら、できるかも!できるはず!』という人が居ないと想いを形にすることができません。

プロデュースはあくまでプロデュースであって、自分で作る事ではありません。

私が少し物作りをかじっているのは、物を造るためでなく、プロデュースに役立てるためです。

そして、その作り手の『得意技』『長所』『魅力』を徹底的に分析して、それを最大限に活かした上で、自分の理想を乗っける。

自分のやりたいことを押しつけるのではありません。

『のっける』んです。

自分が見込んだ作り手なんですから、なにをしなくてもベクトルは同じ方向を向いているはずです。

だから、乗っけるんです。

いわば、媒染で色を引き立てて定着させるようなもんですね。

そうすると、自分が欲しいと思う魅力というか美点かピンピンにとがる。

とがって、観る人に突き刺さるんです。

作り手さんと私が同じ方向を向いていないと、とんがらない。

先が丸まってると、突き刺さらないんです。

とんがっているはずなのに、突き刺さらないとしたら、私の責任です。

なぜ突き刺さらないのかを考える事が、つぎの物作りにまたつながります。

もし、私に京友禅をプロデュースしろ、と言われたらどうするか。

まずは、私の想いにかなう作り手を見つける。

作り手が全く違う方向を向いていたら、なんにも物作りは出来ません。

お手上げです。

同じ方向を向いて、長所と美点を引き出すことが出来たら・・・

私らしい作品が出来るでしょう。

人間はいろんな長所・短所をもっていますよね。

それが学校の先生とか、クラブの監督とか、職場の上司によって、長所がさらに引き出されることってありますよね。

また、自分では気づかなかった長所を見つけて伸ばして貰えることもあります。

でも、高校野球で大活躍したエースがプロに行ってからダメになる事もありますよね。

指導者との相性というのもあるんだと想うんです。

いわば、私は自分のチームを作っているわけです。

選手は投げたり、打ったり、捕ったりですが、その投球、打球、連係プレー等は、私の思い描く理想を基にして形成されるんです。

チームのプレー全体を私が造り、そのゲーム、プレーを実現してくれる選手を探して育てる。

そんな感じの仕事といえば良いんですかね。

ですから、どんなに良い商品、人気のある商品であっても、私の範疇に無いモノが入ると、展示会ではそこだけ浮いてしまいます。

私独自の世界で統一されていないと、なんか雑然としたありあわせにしかならないんです。

自分の好みで作家さんに物作りをさせるというと、なにか作り手をねじ伏せる様に誤解される方もあるかもしれませんが、決してそういう事ではないんですね。

じゃ、私が陶器や漆器もプロデュースできるかといえば、それはムリです。

なぜなら、それらにたいする美意識や価値観が確立していないからです。

5年や10年じゃ、ムリですよ。

経験と研鑽と、少しの天分が必要です。

そんな感じですから、私と同じ作家さんに注文を出しても、わたしのところにある物と同じ物はできないはずです。

あとね、大事なのは、ちょっと的外れな作品になっても、その作品を根気強く持ち続ける忍耐力と一緒に仕事をしてくれる作り手さんの仕事が永く続けられるようにという責任感は必要でしょうね。

もちろん、私に背を向けて去っていた作り手さんも少なくありません。

それはそれでいいんです。

楽しく仲良くやれなきゃ、良い物はできませんからね。

それが私の物作りのポリシーです。

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この記事を書いた人

萬代商事株式会社 代表取締役
もずや民藝館館長
文化経営研究所主宰
芭蕉庵主宰 
茶人

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