梅田の阪急で開催されいてる『白洲正子のきもの』の展示を見てきました。
元々、私とは好みが合うなぁ、と想いながら色々と参考にさせてもらったりしているんですが、非常に素晴らしい内容でした。
会場は撮影禁止なので私の持っている本から写真を拝借します。
(『白洲正子のきもの』新潮社)
ロートン織(大島郁作)
これはロートン織に多彩な横段の縞が入っています。規則的な横段になっているのかと想って見たんですが、どうもランダムに不規則に入れてあるようです。
沖縄では見たことが無い感じがしましたが、ロートン織の単調さをカバーするには良いデザインかも知れないと想いました。
久米島紬
泥で2点出ていた様に想います。
柄は大振りなほうですが、絣に力がなく、絣としてはそんなに良い作品とは想いませんでした。キレイに括れてはいたし、絣足も味がありましたが。もしかしたたら白洲正子が細めの絣を作らせたのかもしれません。私が注目したのは、グールの色です。いまのよりもかなり濃いです。それによって白の絣と合わせて、色絣としての存在感と躍動感は出ている様に想いました。
琉球絣として出ていた作品。
絵絣なので南風原産でしょうか。
写真では全く解りませんが、地色の藍が素晴らしかったです。
昔の絣にしては小柄で大人しい感じがします。
これも注文かもしれませんね。
半幅帯
井手孝造というひとの作品らしいです。
引きつけられたのは、右側の作品。
筆致も凄いのですが、色がすごすぎる。筆で引いただけでこんな色が乗るのでしょうか?
圧倒的でした。
柳悦博の吉野格子の生地に古澤万千子の染め。
かなり凹凸のある生地に、よくこんな繊細な文様を乗せた物だ!感心しました。
それでいて、生地と染めが完全に調和して、相乗効果をあげている。
古澤の力量が十分に感じられる作品でした。
紺色のは『琉球絣』と書いてありました。後述する田島孝夫の作品ですが、藍色が
すばらしい。沖縄では『縞ぬ中(あやぬなか)』というジャンルに入る作品ですが、織の技法の前に色で圧倒されてしまいました。
黄八丈
専門外ですが、いままで見たのと全然ちがいました。
色の奥行きが全く違うのです。
シンプルな構図ですが、力強さがわき出ているような素晴らしい作品でした。
琉球絣と書いてあった作品。
作者は田島孝夫
手結いの絣を使っている様ですし、構図からして手縞を手本にして、白洲正子が田島孝夫に、自分に合うように作らせた物でしょうね。
これも藍の発色が素晴らしい作品でした。
それと一番示唆を受けたのは、おそらくは白洲の要望で絣と縞を細くしたのでしょうが、
それでいて、『沖縄っぽさ』がそんなに抜けていない。力強さ、伸びやかさが十分にあって、『ニセモン』にはなっていないのです。
これは私にとって衝撃でした。
なんでこんな作品が出来るのか・・・・
総合的な織手としての実力がそれを実現可能にしているのでしょうが、やっぱり、染めと、その発色を保証する糸の質なんでしょうね。
写真では割に弱々しく見えると想いますが、現物をみると、腰を抜かしました。
細い線なんですが、生きてるんです。
コーディネートもさすがですね。
無地物の良さがもっと認識されて欲しいと想います。
芭蕉布も一点でていました。
よく見ると筒袖だし、丈が短い。
ということは、白洲は芭蕉布を琉装っぽくツイタケで着ていたんでしょうね。
これによって白洲正子が着物の超上級者である事が一発で解ります。
素材の特性を熟知して、それを十分に活かして着る。
筒袖なので、襦袢はどうしていたのかな?とか気になりますが
さすが!と想わせるに十分な一点でした。
柳悦孝の鉄線ですが、何気ない緯絣の様に見えますが、実はこれ、三段階の強弱によって構成されいてるんです。絣の強弱で2種。そしてジーッと見ないと気付かないかも知れませんが、花心の部分が節糸?になっていてポイントが作られているんです。悲しいかな老眼ですし、作品に近づけないので、節糸なのか花織なのか、よく識別できませんでした。近づき過ぎて柵を動かしてしまうくらい近づいたのですが・・・絣、とくに大きな構図の絣になるとベターっとなっててしまう嫌いがありますが、これだと立体感が増しますね。経緯の絣だと絣の交わりによる織味で濃淡や立体感が出せますが緯絣だけだとそうはいきません。これも大変参考になる技法でした。
白洲正子という人は、文化人だと想っていたら、ただの文化人ではないですね。
『こうげい』という着物のお店を銀座に開いて着物を売っていたということですが、
この作品展を見ると、『染織プロデューサー』であったことが解ります。
彼女と仕事をしている作り手の力量がまたとてつもなく凄い。
たぶん、お金に糸目を付けずに良い物を作らせたのでしょう。
もちろん、展示は白洲正子が実際に着用していた物ですから、彼女が自分の為につくらせたものだったのでしょう。実際、目鼻立ちのハッキリした白洲にピッタリの作品ばかりでした。私の場合、付き合ってるのは作家さんです。作家さんというのは自分のカラーがはっきりしていて、『作りたい物を作る』人達です。白洲が付き合っていたのは『職人』ですね。白洲の想いを受け入れてそれを形にした。またそれができる抜群の力量を持っていた。もちろん、白洲の力量もあるのですが、着物好きとしても染織プロデューサーとしても幸せな人だと想います。
今時は、特に織の分野では『言われた通りに作りますよ』なんて言って、出来上がってきたら、とんでもなく素晴らしい作品だった、なんて職人どれだけいますかね?織の分業において、また染めではまだ居ると想いますし、私もすぐれた職人さんともお付き合いをさせていただいています。しかし『作家物』と言う言葉が流行りだしてから、凄腕の職人さんは減ってきているような気はします。織のおあつらえ、というのが無くなって、委託販売が中心になっては、そうなるのも必然でしょうね。
もう一つ気になった作品は藤村玲子の紅型です。
残念ながら画像がありません。
あれをみると、白洲正子は紅型があんまり好きじゃなかったみたいですね。
赤を殺して、色指しも全体的に抑えめにしてありました。
柄も小柄で、ハッキリ行って、まったく面白くありませんでした。
もしかしたら、当時の藤村の力量にも問題あったのかもしれませんが、ちょっと『無理矢理作った感』『イヤイヤ作った感』のある作品だったと想います。
正直言って、紅型らしい魅力がまったく無かったです。
私なら、白洲正子にぴったりの紅型を作ってあげられたのに!とも想いましたね。
おそらく、ある時点から、白洲正子自体にも行き詰まり感があったんだと想います。それは、『私の好み』が一方通行で行ってしまって、作り手やお客様との『息の合わせ』がなかったような形跡が感じられるからです。
そうなると自分の好きな物は作らせることが出来ても、より幅広いお客様に指示される作品は作り得ません。
そこが作家とプロデューサーの違うところです。
本当にたくさんの事を感じる事ができて、狭い会場ですが、2時間たっぷり見せてもらいました。
沖縄の染織家さんたちにも是非見せてあげたいです。
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