『第89回国展を観て』2015/5/29

名古屋に行ったついでに愛知県美術館で開催されている国展を見て来ました。

国展というのは、国画会が開催している美術工芸の公募展で、東京、名古屋、大阪と巡回して開催されます。

目的は工芸部の染織なのですが、工芸部は出品数が非常に少なく、絵画、写真ばっかりだな、という感じです。

染織では沖縄からは祝嶺恭子先生、多和田淑子先生の作品が展示されています。

今回の国展では、私がお世話になっている他の方も数人入選されています。

染色部門を観ての感想は・・・

いつもの事ながら、『表現したければ、筆で描けばいいのに』という事です。

着物や帯が非常に少なくて、タペストリーや飾り布みたいなのが大半です。

染も、織もです。

国画会創設期に活躍した作家として挙げられているのは下記の人達です。

《工芸部》 富本憲吉、柳宗悦、濱田庄司、バーナード・リーチ、芹澤ケイ介、河井寛次郎、柳悦孝、舩木道忠、柳悦愽、黒田辰秋

民藝運動家がずらりです。

初期に活躍したのが民藝運動の人達だからと言って、民藝の趣旨に沿わなければならないという事も無いのでしょうが、沖縄に軸足を置く私としては、正直言って『なんなのこれ?』という感じです。

私も大阪芸大で少し学びましたが、織や染を表現の技法として見る傾向が強くなっているような気がします。

もちろん、商業主義ムンムンの作品ばかりが並んでも何も面白くは無いのですが、テーマが着けられた染織作品をみても、『ふーん、だからなに?』という感じしかしないのです。

私の感性が鈍いのかもしれませんが、『あーなるほど!』と感動する作品がない。

テーマを見ずに、作品だけをみて、意味をくみ取れる作品がない。

役所や公民館の吹き抜けに飾られるくらいしか出番の無い布・・・?

もしかしたら、そのうち、ファイバーアートと言われる繊維の立体造形作品も出てくるようになるかも知れませんね。

全体として感じる事は、まず色が甘い。

すごいなー!と思えるものは・・・あったかな?

技法と構成にばかり気を取られて、色の作り込みが甘くなってるんじゃないでしょうか。

お世辞じゃないですが、祝嶺先生の作品はやはり出色だったと思います。

色のパンチ力が全然違う。

あと、表面の感じがもたついている物も数点見られました。

仮絵羽したものは、仕立てが良くないな、と思ったものも。

染の方は、『もういいよー』という感じ。

でも、好きな作品もありました。

国展もそうですが、公募展を見ると、若手をどんどん育てて出品してもらおう!という気持ちになってきますし、実際にそうしています。

それは、賞を取らせてハクを付けさせようというのではなくて、常に創意工夫を忘れないためと、公募展自体を活性化させて、勢いのある作品を紹介したいと思うからです。

会員だから出しとくか、そんなやっつけ仕事臭のする作品も多々見られる事も事実です。

私は染織の要は『色』だと想っています。

どんなに複雑な技法を駆使した作品でも、シンプルな作品のひと色によって、心を打ち抜かれる事があります。

実は私にも、勝負色というのがあります。

この色系にかけてはどこにも負けない、という色があるんです。

私が染めるワケではありませんが、眼とカンで出してもらえるんです。

他の同じ立場の人にも同じ様に勝負色があるんだろうと想います。

特に染織に興味のない人でも、誰が見ても『染織ってすばらしいなぁ』と想ってもらうことは出来ると想うんです。

知識の無い人にとって技法なんて関係ないんです。

技法は色を引き立てるための手段に過ぎない、私はそう想います。

植物染料を多用する人も多いようですが、植物染料だから良い色がでるとは限らないと想います。

植物染料で、自分が狙った色を出せる技術がある人がどれだけ居るでしょうか?

陶芸家は、窯の中で起きる自然現象でさえ、コントロールして狙ったとおりの物を造ろうとするそうです。

一般の人は、工程の複雑さや長さを聞いて、その値打ちを感じるかも知れませんが、プロの世界は結果のみです。

こういう作品を造ろうと狙い、狙ったとおりの結果を出す。

そのための技法、工程であって、技法や工程に価値があるわけではないと私は思います。

茶道の道具に茶杓というのがあります。

御抹茶をすくうための小さな匙みたいなもので、よく『なんでこんな耳かきみたいなのが何百万もするの?』と言われる品物です。

茶杓は、ふつうの人が見ても善し悪しは解らないでしょう。

私も、なんとなくしかわかりません。

でも、普通の茶杓と良い茶杓は、持ってみたら一発で解ります。

良い茶杓を持つと、手にしっくりと来て、心が落ち着くんです。

そうでない茶杓は、なんとなく心がモゾモゾする。

実は『用の美』とはそういう事なんです。

『用の美』というのは、見た目だけではなく、使う人の精神状態にも反映されるんです。

染織も同じです。

だから、現実に使用される物の評価はあくまでも『総合評価』でなければならないんです。

国展を見て、ガッカリしたけど、ファイトも湧いてきた、そんな感じです。

名古屋では5/31(日)まで

大阪は大阪市立美術館で6/9(火)から14(日)まで開催されます。

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この記事を書いた人

萬代商事株式会社 代表取締役
もずや民藝館館長
文化経営研究所主宰
芭蕉庵主宰 
茶人

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