『長崎ちゃんぽんと民藝』2015/5/13

私は仕事で年に数回長崎に行きます。

もう15年以上通っていて、一回の滞在がだいたい2週間ですから、軽く一年以上の日数は長崎に滞在している事になります。

長崎と言えば、ちゃんぽん。

たぶん、200杯以上のちゃんぽんは私の胃袋に入っているだろうと想われます。

長崎に旅行に来られる方もたいていは、まずはちゃんぽんを食べようと想うのじゃないでしょうか。

どの店で食べても、それなりにまずまず美味しいのですが、人気と言えばばらつきがあって、観光客に人気なのはダントツでK店です。

ところが、このK店、地元の人にはすこぶる評判が悪い。

味はそんなに悪くないのですが、作り方が手抜きだと言うことをみんな知ってるんです。

何時言っても一杯だし、待って食べるほどの味でもないので、もう10年以上行ってませんが、不味いことはありません。

どう手抜きかということは、ここで書くことは控えますが、『長崎の恥』という声も良く聞きますし、地元の人の評判が悪いことに対して、『地元ん人間はこんちゃよか』と店主はうそぶいているのだそうです。

でも、連日、観光客や修学旅行生で一杯です。

これが現実です。

なぜ、そういう事が起こるかというと、『K店は美味しい』とガイドブックにも書いてあるし、長崎旅行に行った人に聞いても『K店でちゃんぽん食べた。美味しかった』というからでしょう。

長崎に来て、ちゃんぽんの食べ比べをする人もマレでしょうし、プロの料理人ならいざしらず、作り方まで解析して味をみるひとはなかなかいないでしょう。

つまり、とりあえずは有名だから無難でしょう!という事なんでしょうね。

実は、他にもっと安くて美味しい店はたくさんあるんです。

でも、そんな情報はなかなか得られない。

ガイドブックには一番人気と書いてある、じゃ、そこに行こうよ!となるわけです。

昔K店に言ってよく食べた父の話を思い起こすと、『泣くほど美味しい』という事でしたし、地元の人も『昔は良かったとよ』と口を揃えて言います。

観光客は情報の真偽を見分ける時間も手段も無い、という事なんでしょうね。

大阪でも地元の人が行く店はちょっと味が落ちたら、すぐに広まってしまって、流行らなくなります。

ところが、観光客が食べる串カツ屋は、まずくても毎日行列するんです。

串カツは確かに美味しいけど、並んでまで食うモノじゃない、と私は思いますけどね。

つまりは、情報に振り回されて、消費者は重大な?機会損失をしているという事なんです。

私ならガイドブックなんて見ないで、地元の人に聞きます。

もちろん、インターネットとかガイドブックしか頼りがない時もありますから、その時は、慎重に内容を吟味します。

それでも、ハズレは多いです。

焼き肉だって、大阪に来たら、鶴橋に行くでしょう?

なんで鶴橋が美味しいと想うか?

有名だし、在日韓国人の方がたくさん住まわれていて、その方々が経営されている店だから。そういう感じでしょうか。

じゃ、韓国に行って美味しい焼き肉を食べたか?と言えば、たいていは、日本の焼き肉の方が美味しい、と言う。

それは、日本のお肉が美味しいからでしょう。

私は鶴橋で焼き肉を食べたことがありません。

なんでかといえば、羽曳野のお肉が美味しいからです。

でも、知る人ぞ知るなんですよね。

羽曳野にくると、安くて断然おいしい焼き肉が食べられます。

鶴橋もたぶん、羽曳野から仕入れているんでしょう。

本当の事は、なかなか知り得ない、という事なんでしょうかね。

それは食べ物だけじゃなくて、工芸に関しても同じ事が言えると想います。

なんとか焼が良いとか、なんとかいう作家のモノが素晴らしいとか良く言いますけど、それは本当なのか、疑ってみる必要はあると想うんです。

なんとか焼がすべて言い訳じゃないし、なんとかいう作家の作品がすべて良いわけでもない。

人間国宝の作品だって、駄作はいっぱいあります。

まさしく、すべての情報の衣を取り去って、モノを直に観て、直感で善し悪しを判断する。

そこが民藝を考える上での原点になるんだと想います。

染織の世界でも、ビッグネームを追いかけている問屋さんや小売店さんが居ます。

まぁ、それは商売だから良いとしても、鑑識眼を高めようと言う人は、有名作家のものを観るだけでは不十分だと想います。

展示場で数百と並んだ作品の中から、光り輝いている作品を選び出して、『これは誰がつくったんですか?』と聞き、作家を見つけ出す眼力は、どうしたらつくのか。

そのためには、すべての情報の衣を取り払い、できるだけたくさんの作品を、良いモノ悪いモノ含めて、じっくり観る事です。

チャンポンも串カツも、有名店だけで食べていたのでは、それがチャンポンや串カツの味だと想ってしまいます。

でも、実は違うかも知れない。

おかしい。

これ、そんなに感動する味か?

確かに美味しいけど、そんな評判になるほどでもないで。

そう感じるのは、口に入れた瞬間、食べている途中、食べ終わった後、そして店を出た後、それぞれです。

工芸作品も同じです。

ええのはええけど、これで人間国宝か?

有名やけど、センス悪!

とか、率直に感じたままを心に入れる。

たいてい、間違っていません。

人間、腐ったモノを口に入れたら、マズ!と想ってはき出すか、その前に、クサッ!と悪臭を感じて遠ざけます。

それを間違って身体の中にいれてしまうのは、感覚がおかしくなってるからです。

普通なら人間は正しい反応をするのです。

なぜ、異常になるのか。

それは、間違った情報で先入観を植え付けられるからです。

モノを観る眼は先入観との戦いです。

一般に良いと言われている物をくさすと、『あの人偏屈モノ』とか『良さが解らない』とか想われてしまう可能性があります。

しかし、それを恐れずに『これ、どこが良いの?』『そんなに美味しいか?』と私は口に出して言います。

もちろん、美味しいと想ったら美味しいと言うし、良いと思ったら良いと言います。

美の世界でプロになろうと想ったら、自分の感覚を信じて、口に出すことも訓練の一つだろうと想います。

ちなみに私がこよなく愛する大阪料理は、きずし、かす汁、そしてナスとキュウリの古漬けをショウガと醤油を入れてぐちゃぐちゃに混ぜた漬け物です。

この情報へのアクセスはメンバーに限定されています。ログインしてください。メンバー登録は下記リンクをクリックしてください。

既存ユーザのログイン
   
新規ユーザー登録
*必須項目
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

萬代商事株式会社 代表取締役
もずや民藝館館長
文化経営研究所主宰
芭蕉庵主宰 
茶人

目次