『『せっかくだから』』2014/5/13

前々から聞いていた話が、最近、ちょっと気になっています。

日本民藝協団の機関誌『日本の民藝』には

『民藝ツアーなどで、窯場に行って、せっかく来たのだからと、駄作を買い求める人が多い様に見受けられるが、それは、作り手の為にならない。くだらない物は買わないで欲しい』

と何年か前に書かれていました。

また、宗匠のこのあいだのお話でも

『有名だからと言って、くだらない道具は買わないでください』

とおっしゃっておられました。

この言葉が意味するところは何なのでしょうか。

文化的にも、マーケティング的にも、非常に興味深い話なのです。

まず、なぜ、買ってしまうのでしょうか。

例えば民藝ツアーに九州に行くとしましょう。

福岡から、佐賀、長崎と廻る。

小石原やら、唐津、波佐見、伊万里、いろんな焼き物があります。

来ている人はみんな焼き物好きでしょうね。

民藝の会に参加しているのですから、それなりの観る目はあるハズです。

窯場窯場で、いろんな特色ある焼き物があり、作り手の話も聞く。

ところが、民藝協団の幹部の人から見たら、駄作の山、なんて事もあるんでしょうね。

バスに乗り込んでくる人達は、手に手に、焼き物が入った袋をもっている。

『あんなもの、買うなよ!なんの為の民藝運動なんだ』

と想う事もあるでしょう。

民藝運動が何を目指しているかについては、いまさら私が書くこともないだろうと想いますが、簡単に言えば『生活の中に美をとりいれる』という事です。

そして『用の美』普段使いのなにとはいわない様な雑器の中にこそ、美は宿るのだ、という美意識のいわば革命だったんですね。

ということは、その作品に『美』がやどっていなければ、それは民藝品でもなんでもない訳です。

それも『健康な美』でなければならない。

そこから、外れているから『買うな』という言葉がでるんでしょうね。

また、『有名だからと言って、下らない道具は買うな』という宗匠のお言葉はどうでしょう。

茶道具屋がどんな商売をしているのか、私にはわかりませんが、たぶん、千家十職だの、家元のなんとかだの、どこどこのなんとかさんの作品だの、とか言うんでしょうね。

その中に、宗匠から見られたら、『しょーむない』物もあるんでしょうね。

つまりは、

その器物自体ではなくて、そこにへばりついてる情報や環境が購買決定のキーになっている、という事でしょうか。

お茶道具の事はよくわかりませんが、お茶会を開くときは、かならず一つは新しい道具を披露せねばならないと聞いた事があります。

これも、『茶道具を買う』大きな動機なんでしょうね。

共通点を探っていくと、

『せっかくだから』

という所で交わるのかもしれません。

せっかく来たのだから、記念に買おう。

せっかく買うのだったら、名前のあるものを、権威ある人のシルシのついたものを。

そこでは、作品の善し悪しは二の次。

私も良く言う『ま、いっか』なんです。

産地に行って、また作り手を前にして、『なんじゃこれ、しょーむな』と言い、買わないで帰るというのは勇気が要ります。

有名作家の作品や、権威ある人の保証するものを、『えー、ウソやろ』とかは言えないものです。

でも、現実には、そんなのが山ほどあります。

実はそれを見抜くのがプロの眼だとも言えます。

私は陶器の場合、たいてい買って帰ります。

なぜかというと、そこまで観る眼がないからです。

良いかな、わりと好きかも、くらいで、自分が日常に使えそうな物を買います。

それで、眼を少しずつ肥やしていく。

使っていると、あ、しょーむないもん買うてしもた、と解るときも来るし、これ、案外エエわ!というのもある。

使わないでコレクションだけすると、モノを観る眼は育たない、民藝に関しては特にそれが言えるだろうと想います。

惜しげ無く使えるモノを買い、使って善し悪しを実感する。

たぶん、茶道具でも本来同じなのではないかと想うのです。

その眼、というか、自分の中の尺度が定まっていないと、間違った買い物をしてしまうのでしょう。

初めから百発百中の買い物、モノ選びなどできるはずはありません。

『買わないでください』と言われたら、何も買えなくなるかも知れません。

しかし、今は間違っていても良い、未熟でも良い、自分を信じて、自分の生活や価値観に合うと思うモノを買えば良いのだろうと想います。

他人に判断の尺度をゆだねていれば、自分の価値尺度は育まれないし、定まりません。

『なんとなく』止まりです。

もちろん、それでも、失敗します。

それも、自分の未熟ゆえ、と想えれば、次に活かすことが出来ます。

これは、消費者のみなさんでも、ご商売の上で仕入れをなさる場合でも同じ事です。

他人がどう想うおうが、関係ないのです。

自分のお気に入りのモノに囲まれて、お気に入りのモノと共に、楽しく美しく暮らす。

これが民藝の精神だと想います。

今のように、モノと情報が氾濫すると、ひとつのモノをジックリ見るというのが難しくなってきています。

購入するかどうか決めるとき、きちんとモノを観ていますか?

観ているようで、他の情報や価格が頭を駆け巡っていませんか?

作り手がどんな人だとか、その人が人間的に素敵な人だとか、経歴がどうとか、誰がその人の作品のファンだとか、その作品の価値には全く関係がありません。

作品の価値はだれが決めるのか?

それは、購入してお使いになる方自身なんです。

ですから、作り手の意図とか、そんなのも全然関係ない。

自分にとって良いか悪いか、その一点です。

『せっかくだから』買おう、から、『せっかくだから』使いたおしてやろう、が良いのではないでしょうか。

何度も繰り返し使って愛用すれば、結論は自ずから、見えてくるはずです。

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この記事を書いた人

萬代商事株式会社 代表取締役
もずや民藝館館長
文化経営研究所主宰
芭蕉庵主宰 
茶人

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