『嗚呼、勘違い』2014/1/15

去年くらいだったと思いますが、日本民芸協団(日本工芸館)の機関誌に、

『民芸ツアーに行ったからといって、つまらない作品を買わないでください』

と書いてあったことがあります。

三年くらい工房で修行したら、すぐに独立する陶工が多いらしく、そのせいで陶磁器店に駄作が並ぶ結果になっているんだそうです。

でも、焼き物を見るための旅行で来た人たちは『せっかくだから』と何か買っていく。

それが、陶工の成長を阻害しているというのですね。

つまり

『売れてるんだから、自分はOKなんだ』

と思ってしまうわけです。

そもそも、3年ばかりの修行で独立するというのが、

『早く自分自身のものがつくりたい』

と思うからでしょうから、それが売れたとなると、そりゃ有頂天になるでしょう。

モノが売れるためには様々な要素が必要ですが、場所や流行=ブームもその一つです。

去年は式年遷宮にわきましたが、その影響で伊勢や出雲の物産はよく売れたでしょう。

NHK大河ドラマの影響で、会津木綿は生産が追いつかないくらい売れているそうです。

萩、備前、信楽などなど、たくさんの焼き物の産地がありますが、そこの窯場を訪れて、商品として陳列してあったら、

『ま、いっか』

のノリで買っちゃうでしょう。それが人情です。

それは、その工芸品の魅力じゃなくて、『せっかくだから』の記念品、土産物なんですね。

復帰30周年前後の沖縄ブームの時もそうでした。

沖縄サミット、NHKの朝ドラ効果もあって、盛り上がりに盛り上がり、あおりにあおられました。

あの時、沖縄染織はまさに引っ張りだこ。

たこ焼きのタコが、刺身に使われる位の需要があったんです。

そりゃ、作り手も、問屋も有頂天になりますよ。

で、『勘違い』しちゃったわけです。

中堅どころの作り手まで注文がいっぱいで、まだ独立してまもない若手にも仕事が回っていました。

ところが、ブームが去ると、それはやっぱりブームだったとわかる。

そこで足下を見つめ直せば良いのですが、人間、一度良い目を見るとなかなか謙虚になれないもんです。

『こんなはずじゃない』

そう思い続ける。

でも、違うんです。

そんなもんなんです。

今、沖縄のやちむん通とか、他の焼き物産地の販売センターみたいな所にいっても、なかなか良いものに出会えません。

染織だって同じです。

時代がよければ、『せっかくだから』で売れたでしょう。

また、作品をおいてある場所がよければそれでも売れるでしょう。

でも、それじゃ、『土産物』どまりなんですよ。

作り手の世界も、私たち商人の世界も同じです。

一つずつ、石段をのぼるようにしか、成長していけないものなんです。

本当に才能がある人もいますが、ほとんどの場合は勘違いです。

沖縄染織の世界だけ見ても、あれだけ多くの従事者がいても、天才と思える人は10年に一人出るか出ないかです。

一流に名を連ねるまでには、そうですね、やっぱり30年はかかるでしょうね。

ほんの数年修行をしただけで独立して、賞なんかとってしまったら、それこそ天狗。

『私は一流』

なんて思っちゃう。

そんなはずないのです。

30年はかかります。

工芸の世界というのは、長い長い道のりなのです。

私の経験上、一度良い思いをしてしまった人の足を地に着けるにはかなり骨が折れます。

成功した形に拘泥してしまうからです。

『これが私のスタイル!』なんて勝手に思ってしまう。

そんなに、早く自分のスタイルが決まったら、苦労しまへんがな。

私も自分のスタンスが決まるまで20年かかりました。

昔、流行歌手が大ヒットを飛ばした後、鳴かず飛ばずになったら、カムバックは難しいとされていました。

聴衆も、その歌手の十八番のみを期待する、その時の衝撃が強すぎて、あと何を歌ってもよい歌に聞こえないからかも知れません。

過去の栄光を振り切り、カムバックを果たすにはどうしたらいいのか?

私は生まれ変わることだろうと思います。

イメージチェンジもひとつの選択肢でしょう。

それも、密かに蓄え培った実力があってこそです。

捲土重来を期す時期、どれだけ修練を積んだか。

それが一番大事なんだろうと思います。

勝負はまだまだ先です。

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この記事を書いた人

萬代商事株式会社 代表取締役
もずや民藝館館長
文化経営研究所主宰
芭蕉庵主宰 
茶人

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