私が大阪芸術大学の通信教育で勉強していたときに、アート・マネジメントのスクーリング授業というのがありました。
そのクラスには、私がいた工芸科、そして、絵画、デザインの人達も一緒だったんだと記憶しています。
私の専門はもちろん、工芸でも、伝統工芸なので、先生方とはあらゆるところで衝突していたんですが、この授業は一番ムカつきながら聞いていた苦痛な時間でした。
芸術の世界では、私達の世界を『応用芸術』と言うんですよ。
つまり、純粋芸術に対して応用芸術という位置づけなわけです。
いわば、純粋ではない、という事ですよね。
じゃ、芸術って何?アートって何?って事になるんですが、まぁ、『自分自身を個性的に表現したモノ』ってことでしょうか。
個性?
自分自身?
じゃ、ダビデとかは純粋芸術なんでしょうか?
だれが造ったか解らない飯茶碗は純粋じゃない?
要は鑑賞用はは純粋で、実用は純粋ではない、という事なんですよ。
芸術とうのは、何に使うとか、誰が喜ぶとか、そんなものを超越した、美や感動のみを純粋に追求したモノであるべきだ、そう言いたいんでしょうね。
アートは自分がアートだと想えばアートだ、という舌を噛みそうな話がありますが、
つまり、アートというのは自己中なんです。
反面、いわゆる応用芸術=実用を目的とした芸術というのは、自利利他なんですね。
英語では私はIでいつも大文字です。
日本では、小生とか小職とか拙者とか、自分を相手より低い位置において相手を尊重する。
日本人なら、自分が前に前にと出るよりも、まわりと自分はへりくだって周りと協調したほうが良い結果がでると想いますよね。
つまりココなんですよ。
実用の為、多くの人に使われる為には多産しなければなりません。
多産するには大なり小なり分業が必要です。
個性を思い切り盛り込もうとすれば、分業できないんです。
西洋画とか西洋の彫刻で分業したのってあるんでしょうか?
同じ様なモノをたくさん造るってあるんでしょうか?
『モンパルナスの灯』という映画の中で、モディリアーニがこう言う場面があります。
『絵が解るのは絵描きと詩人だけだ』
モディリアーニの友人が裕福なアメリカ人に彼の絵を紹介した場面もあります。
そのアメリカ人はモディリアーニの絵を気に入りますが、それを商標として使おうと言う。
それに対してモディリアーニは、激怒して、その場を立ち去る・・
モディの気持ちは解ります。
絵は絵として純粋に評価してほしい。
それを他の目的で使って欲しくない。
そう言う意味では、後に出てくるロートレックやミュシャなどは評価が低いのでしょうか。
日本人ならそんな風には想わないですよね。
たとえば、沖縄の版画家・儀間宏や名嘉睦稔の作品が、城間栄順の作品より高尚だなんて想わないはずです。
美しいモノは美しい。
そう感じるはずです。
なぜ、西洋では応用芸術=実用品が、非実用品より下に見られるのか?
民藝運動のメンバーだった、バーナードリーチもその偏見に苦しんでいたそうです。
たぶん、それはこうだと想うんですよ。
実用品を造る作業=労働
非実用品を造る作業=神の業
ご案内の通り、西洋人、キリスト教教徒にとって、労働とは原罪からくるものです。
つまり芸術家の仕事は、労働ではない、ということなんでしょうね。
だから、お金なんかいらないんだ!となる。
お金の為にやっているんじゃないんだ!と、こう来るわけです。
こういう価値観が源流にある思想を、わが国の工芸に持ち込む事が不幸の始まりだと私は思っています。
大学で芸術を学んだ人達は、教員から『芸術とは?』と言ってさんざんこういう価値観を刷り込まれる。
それが絵とかならまだしも、工芸の世界にも入り込んでくるんです。
本当は彼らは『応用芸術』ではなく『不純芸術』と言いたいんです。
そして彼らは『実用』というものさしを持って居ない。
だから、アートマネジメントと言いながら、『売る』という行為から逃避し続ける。
『お金』を無視し続ける。
そのかわり、『助成金』『メセナ』という名の『お布施』を取る方法を教える。
技術を磨いて、創意工夫をして、良いモノを造って、その結果多くの人に喜ばれて、自らの幸福になる。
これ以上の王道が世の中にあるでしょうか?
なぜ、こんなに違いがあるのか?と考えて見ると、『神』に対する意識の違いなのかな?とも想います。
私達にとって神様というのは私達を守り、付いていてくださるもの、そして時に戒めてくださるもの。
守護神という言葉があるとおり、自分には○○の神が付いているという気持ちがどこかにある。
西洋人にとってはどうなのでしょうか?
不勉強でよく分かりませんが、教会と神社の存在感の違いから見ても、違う様な気がするのです。
それが労働観、職業観の違いになり、芸術観の違いに繋がっている様に想えるのです。
民藝の考え方というのは、実は、東洋的価値観、日本人的価値観を取り戻すこと、そのものじゃないかと想うんですね。
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