ロット完了

生産には『ロット』というものが存在します。

私が鐘紡で毛織物の輸出を担当していたとき、『ロット完了』にほとほと悩まされました。

というのは、輸出品には約定というのがあって、この柄のこの色のを何ヤード船積みするという約束が結ばれます。

主に神戸港と名古屋港だったと想いますが、約定通りの数量を納期通りに船積みしないと、約定自体が破棄されることもあります。

10,000ヤードの約定に対して9,999ヤードでもダメなんです。

ところが、毛織物は長い加工工程の中で失敗もあったりして、ショートする場合があります。

厳しい輸出検査を通らなければならないので、全反検査を通ってそれから合計して足らない!となると、また追加で造らねばなりません。

それもそんなに納期に余裕が無い場合が多いので、青ざめるわけです。

糸を揃え、原糸加工、織布、加工を通ってようやく反物は完成です。

私が追っかけていたのは1反100ヤードの反物だったのですが、1反だけがどこかに行ってしまうこともあるんです。

それを探して何日も工場を探し回ることになります。

ですから輸出は『ロット完了』が絶対で、ロットが完了できないと0なんです。

all or nothingの世界ですね。

それが染みついているのか、今でも、『生産のロット』というものに神経を使いますし、約定の達成は絶対だと言うのが頭から離れません。

当然ですが、キモノの世界でも同じ事があって、あたらしく物づくりをするとき、生産を依頼するときにはロットがあります。

あるものを買うのは良いのですが、無いものを造ってもらうときは、『何反つくらなあかんの?』と必ず確かめておかねばなりません。

図案や型代をこちらが負担する場合は、良いのですが、そうでないときは、最低注文数量が必ずあります。

オリジナルの物づくり、世の中にひとつしかない物づくり、というのはそういう意味でコストとリスクがかかるわけです。

最低ロットが10反だとすれば、10反を買い取って、必死に売らなければなりません。

10反売り切ってやっと一息つく、という感じですね。

手作りだから1反ずつだろう、と想えば、それはそんなことはなくて、メーカーが最低採算があうラインで、ロットは設定されますから、価格が安ければ安いほど、最低生産ロットは大きくなる事が多いのです。

沖縄でも安価な絣のキモノだと、数反は造らないと、元が取れない感じです。

染め物でも、図案やら型モノなら型代がかかりますから、それを回収する為に、ロットは設定されます。

『10万円のを10反取ってくれ』

といわれて、

『そんなにようけ、よう売らんわ』

というのなら、

20万で5反でも良いハズです。

でも、それを受ける業者いないでしょう。

『これは一品ものでんねん。値打ちおまっせ』

というのが、そんなにたくさん、あちこちに、ましてや低価格で有るわけがないのです。

そもそも、織物には整経長がありますから、一反ごとに機から下ろしていたら効率がわるくてどうしようもないのです。

何反をいっぺんに織るか、で経糸を発注しているはずですし、

『一反だけ織ってくれ』とか言ったら、バカか素人と想われます。

しかし、ロットを小さくする方法がないではありません。

ある事を永く続ければ、1反から織ってくれる場合もあります。

それは、『作品』として認めてあげて、それ相応の対価に応じてあげることだろうと私は思っています。

国展や工芸展に作品を出すのに、同じモノを二反造って一つ出す、という人は多くないと想います。

作家は同じモノは二度と造らない、そういうものだろうと想うのです。

こちらが商売モノとして扱えば、作り手も商売モノとして制作にあたる。

当然の事です。

良い作品を造って、リピートするという事もありますが、リピートはリピート。

始めて手がけたモノとは違います。

私が知る限り、首里織の人達は同じモノを造る事を極端に嫌がります。

ムリに造ってもらうと、ろくなモノが上がってこないというのも本当です。

あたらしく造れば、あたらしいものが作家にも見えてくる。

それが楽しいのだろうと想います。

そこが人間がやる仕事と機械がやる仕事の違いなんでしょうね。

無論、どちらがいいという事はありません。

両方とも長所短所があります。

しかし、人間を相手にするのならば、人間として接しなければならないというのが最低限のマナーであり、お互いを利益の為になる事です。

『法律の内側ならなんでもOK』と言う風潮の世の中になりつつありますが、せめて私達のような手作りの世界はのんびり、楽しく仕事したいですね。

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この記事を書いた人

萬代商事株式会社 代表取締役
もずや民藝館館長
文化経営研究所主宰
芭蕉庵主宰 
茶人

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