『額に汗して働く』2015/5/22

日曜日から福岡に来ていて、今は北九州市八幡西区の黒崎というところに宿泊しています。

以前、お得意先があって、年に2回、2週間ずつ滞在していました。

17年前まで毎年ですから、8年間くらいですね。

かつてよく行った食堂に今回も行ってみました。

昔から24時間営業で、汚い店でしたが、今はキレイになっています。

八幡というところには有名な製鉄所があり、黒崎には窯業関係などたくさんの工場があります。

ですから、当時は三交代の職工さんでしょうか、朝ご飯を食べに行くとビールを飲んでいたり、作業服(職服といいますが)を着た人でいっぱいでした。

ところが、今はその人たちの姿がありません。

その食堂で食事をしているのは、ごく普通の背広を着たサラリーマンや、学生さんなど。

昔は食堂のおばさんたちも、お客さんと言い合いをしていたりして、活気があったんですが、それもありません。

味はそのままですが、雰囲気はがらりと変わってしまっています。

(あいかわらず、ご飯はてんこもりだし)

いろいろ想いながら、夕食を食べていたんですが、全国的に同じような変化があります。

職服を着た人に会うことが減っているんです。

工場労働者に会うことも少なくなっている。

私も社会に出た当時の2年間は職服を着ていました。

工場労働者だったんです。

今日思い出したのは次の様な事です。

ある日、上司から休日の出勤を要請されました。

当時は好況だったので、手が足りないか何かだったのかもしれませんが、理由は覚えていません。

とは言っても、台持ち(機械を動かす人)が出来るわけではないので、縫い合わせやら、進行の手伝いだったんだと想います。

私は快く受けたんですが、断った先輩もいらっしゃいました。

午前中だけくらいの仕事だったんでしょう、お昼にはカツ丼が振る舞われました。

休日出勤した数名でたべた『たつみ寿司のカツ丼』

今までの人生で食べたどんな食事よりも、あのカツ丼は美味しかったと感じています。

一生忘れない思い出です。

美味しいカツ丼だったのは確かですが、それだけではありません。

みんなで汗を流して働いた後、みんなで食べる一杯のカツ丼。

これがおいしさを何倍増にもしているんだろうと想います。

産業は空洞化し、工場労働者は必然的に減っていきます。

私が居た工場も無くなりました。

金融立国だの、財テクだのと、身体を動かさないで働くことを勧める風潮があります。

カツ丼を思い出すと、人間の幸せってどこにあるんだろうかと考えてしまうんです。

私は今でも、猛暑の夏も極寒の冬も風呂敷に反物を詰めて売り歩いています。

それがいやだと想った事はありません。

状況が厳しい中では一層、夜のビールも、ご飯もまた格別に美味しいのです。

そしてぐっすりと寝て、また元気に次の日の仕事に向かう。

ずっとビルの中で事務なんて仕事、いまさら出来ないと想います。

私たちは、『額に汗して働く喜び』を奪われたのではないでしょうか?

同じ釜の飯を食べた仲間を失いつつあるのではないでしょうか?

『身体に汗をかかないで、頭に汗をかけ』

部下や後輩にそう教える営業がいるそうです。

愚かなことです。

私は父から『額に汗して働いて得た金は絶対に無駄にならない』と教えられてきました。

そして、額の汗こそ、何よりも大事で貴重なものだと想っています。

汗まみれ、泥まみれになって働く人を馬鹿にする人にはさせておけばいい。

人間の一番美しい姿はなにか?

それは額に汗して懸命に働く姿です。

そのことを忘れた国こそ、滅亡への道を行くような気がしています。

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この記事を書いた人

萬代商事株式会社 代表取締役
もずや民藝館館長
文化経営研究所主宰
芭蕉庵主宰 
茶人

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