『細かく分ければ需要は増える』2015/5/15

私が最近釣りにはまって、あっちの渓流、こっちの釣り堀と休みの度に竿を出しているのはフェイスブック等でお友達になってくださっている方はご存じかと想います。

若い頃、そうですね・・結婚する前までは弟と一緒にブラックバス釣りやら、海で五目釣りなどをしていたんですが、ぱったりと止めてしまったんですね。

最近になって、友人の誘いでまた釣りを始めることになりました。
元々、釣りは好きなのですぐにはまりました。

私がやっているのは主に毛鉤をつかう釣りです。

フライフィッシングというやつですね。

これを始めると、まぁ、いろんな道具が必要です。

竿、リール、ライン、リーダー、ティペット・・・これは釣るための道具

バイス、フック(ハリ)、各種マテリアル(羽根など)・・・これは毛鉤を造る道具

竿も長さと太さが色々で、それに合わせてリールも、リーダーも変わってきます。

友人も協力してくれて助かったのですが、それが無ければスタートできないくらい、必要な道具は多かったです。

これは、季節、時間などの時間的変数と、川、池などの場所的変数、どんな魚を釣るかという対象魚の変数、そして、いかに釣りを面白くするかという心理的・体感的変数などなどが関連しています。

それと、釣りをしていないときも、フライを造りながら(巻くとかタイイングとか言うのですが)『よーっしゃ、今度はこのフライで絶対しとめたんねん!』と眉をしかめながら、あるいは、にやつきながら巻く。これもフライフィッシングの楽しみの一つです。

ひとつというより、半分くらいはそうかもしれませんね(^_^;)

ところが最近、『テンカラ釣』という釣法に出会いました。

毛鉤を使うのは同じなのですが、竿は延べ竿、リールはナシ。

糸も2種類、毛鉤も2種類くらいと極めて簡素です。

なんでも、日本の職業釣り師が山岳渓流でイワナなどを釣っていた方法なんだとか。

テンカラの場合、季節も、魚の種類も、何処で釣るかも関係なし。

道具がシンプルな分、いろんな意味で制限はありますが、『それはあきらめましょう』というスタンスの釣りです。

で、どっちが釣れるかといえば、どっちもどっち。

私の経験上、目の前に居て毛鉤が届く範囲の魚だとテンカラに軍配が上がるような感じがしています。

それで、ちょっと待てよ・・・

という事になるわけです。

フライフィッシングのショップに行ったり、雑誌をみたりすると、こんな時にはこんな道具、またこんな魚にはこんなシステム・・とあたまが痛くなるくらい、いろんな道具の提案があります。

こういう釣り方にはこれが効率的とか。

それがまた、話を聞いていると理にかなってる。

知的な人ほどその世界にはまるのかも知れません。

フライショップでテンカラの話をすると、店員さんは一様に顔がくもります。

テンカラの話には応じてくれません。

考えたら当然ですよね。

フライの人がテンカラに転向してしまったら、いままで売れていた物が売れなくなってしまいます。

フライの竿は高いモノは一本数十万円、リールも数万円。

その他、ドライフライやら、ニンフやら、ストリーマーやら、ウエットフライやら、いろんな種類のフライがあって、それを造るための材料(マテリアル)も数え切れないくらいの種類あります。

テンカラの場合は毛鉤なんて2種類それも大小あれば充分だ、といいます。

竿も手作りの竹竿とかでなければ2万円もだせば充分です。

糸(ライン)もそのへんの釣具屋で売ってるので間に合います。

テンカラ師(テンカラをやる人の事をこう言います)は魚は色を判別できない、と言いますが、フライショップの人は、『いや、今は判別できることが解ってきたらしいです』という。

魚に色が解るとなれば、フライもいろんな色が要るわけで、同じ形のフライでも何色も巻かなければなりません。

となると、マテリアルも何色も要る。

だから、フライをやるにはお金とヒマが要ると言われる訳です。

テンカラは、野池でうどんをエサにフナを釣るのとコスト面ではそんなに変わりません。

つまり・・・

細かく分ければ沢山売れるのです。

こんな時にはコレ、また、こんな時にはコレ、と細かく提案されれば、それに合う物が欲しいと想うのが人情です。

そんなもの、かわりゃしないでしょ!と想えるのは色々解った後の話です。

実は着物の世界も同じです。

こんな時にはコレ、こんな時にはコレ、と細かく細かく定めた。

誰が定めたかといえば、たしかやっぱりどこかの売り手だったはずですが、実は昔から決まってるものでも何でもないんです。

それが今は着物を理解しにくいものにしてしまっている一つの要因かもしれません。

今一般に想われているしきたりやTPOを無視あるいは逸脱するのが良いとは全く言っていませんよ。

私は、あくまでも正統派で、TPOを厳格に守ったお勧めをしています。

それは、そうしないとお客様にご迷惑を掛ける可能性があるからです。

茶道のいろんな行事の時に何を着たらいいのかというのも、実はなんの決まり事もないそうです。

たぶん、お茶の免状をもらいに家元に行くときには指定があるので、それに準拠して、色々言うんだろう、という事でした。

何にも決まってないんです。

ですから、自分が良いと思えば、それで良いんです。

でも、どれが良いか解らない、恥をかかないようにしたい、と言うことであれば、オーソドックスで右からも左からも何も言われることのない事をお伝えします。

大阪に船場という町があって、そこは昔から繊維業で栄えている所です。

船場では更衣が厳格で、どんなに暑くても寒くても、決められた通りの着物しか着なかったそうです。

なぜでしょうか?

そうしないと、売れなくなるからです。

沖縄のように年中温かいところでは重衣料は売れません。

1年の3/4はかりゆしウェアで過ごせると、それしか要らないでしょう?

冬だけジャンパーでも羽織れば良いわけです。

人前に出る時や、お祝い事で招待された時、上等なモノを、できれば新調して着る。

実はこれだけで良いんです。

たぶんこれは万国共通なのだろうと想います。

風邪と共に去りぬという映画でスカーレットオハラがレットバトラーに会いに行くときに、カーテンを引きちぎってドレスを造るシーンがあるでしょう?

大事な人と合うとき、大事な所へ行くとき、ビシッとした格好で行きたい。

大事なのは、そのメリハリなんです。

そのビシッが、どうビシッなのかが解る様になるのも大事です。

私達マーケターは『ウォンツ』という言葉を使って、市場拡大を図ってきました。

『感性消費』という言葉も一時もてはやされました。

釣具も着物も、細分化したためにおこったこと。

良いモノを一つ買って、それを大切に使うことを忘れさせてしまったのではないでしょうか。

もちろん、それでは、消費は増えないかも知れません。

しかし、予算制約線が右上に移動しない限り、細分化は品質の低下と、生産の海外移転を招くだけです。

釣具もほとんどは海外製品です。

良いモノの生産を国内に残すには、消費の分散に歯止めを掛ける事も、今や必要なのではないかと想っています。

良い物は欲しいけれど、あれもこれもは買えないわ。

当然です。

男性のバッグは使い込んだものを持っているほど、その人の信用が高まると聞いた事があります。

うちで買って頂いた織物などは、ほんとうにドンドン着て、味わいつくしてほしいと想います。

良いモノは着るほどに味わい深くなり、あらたな魅力を教えてくれるはずです。

着物だけでなく、良いモノと人生の歩みを共にする。

買った着物は、着る人が完成させるんです。

それは着る味わいと共に、そして想い出と共に。

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この記事を書いた人

萬代商事株式会社 代表取締役
もずや民藝館館長
文化経営研究所主宰
芭蕉庵主宰 
茶人

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